2024年の国内調剤薬局M&A動向と業界の特徴

近年、国内の調剤薬局業界は大きな転換期を迎えています。特に2024年は、医療費の抑制政策や少子高齢化の進展、さらにはDX（デジタルトランスフォーメーション）の加速を背景に、業界全体での再編が加速しています。本コラムでは、2024年における調剤薬局のM&A（合併・買収）の動向と、それを取り巻く業界の特徴について解説します。

M&A動向：再編の加速と戦略的提携の増加

2024年の調剤薬局業界では、特に中小規模の薬局が大手グループに統合されるケースが目立ちます。これは、以下の要因が影響しています。

① 【政府の医療費削減政策と報酬改定】
政府は医療費の削減を目的として、調剤報酬の改定や薬価の引き下げを進めています。これにより、収益性が低下した中小薬局は単独での経営が難しくなり、大手チェーンによる買収が進んでいるのです。特に、2024年度の診療報酬改定では「対物業務から対人業務へ」という方針がより明確になりました。これは患者のストーリーを理解し、主体的に薬物治療に参画しつつ、業務を展開するというもの。そのため、調剤料は廃止されています。

また、在宅医療や地域包括ケアシステムへの対応力が求められるようになりました。これに対応できる体制を構築するため、多くの薬局がM&Aを通じて規模拡大を図っています。

②【 大手チェーンによる市場支配の強化】
大手チェーン薬局は、経済規模の拡大によるコスト削減やサービスの多様化を目指し、積極的にM&Aを進めています。特に、全国展開を図る大手企業は地方の有力薬局を買収し、地域密着型のサービスを維持しながらも効率的な運営を実現しています。2024年には、これまで独立を維持していた中堅チェーンも大手の傘下に入るケースが増加し、業界の寡占化が進んだことが特徴です。

2024年はクオールホールディングスが第一三共エスファを買収し、メディカルシステムネットワークがTOBでトータル・メディカルサービスを傘下に収めています。

③ 【戦略的提携による競争力強化】
単なる買収だけでなく、異業種との提携も増加しています。特に、医療系IT企業や物流企業との協業を通じて、オンライン服薬指導や宅配サービスの強化が進んでいます。これにより、患者の利便性向上と薬局の運営効率化が同時に図られているのです。

業界の特徴：DXと地域包括ケアの推進

2024年の調剤薬局業界は、デジタル技術の活用と地域医療への貢献が大きなテーマとなっています。

①【 デジタルトランスフォーメーション（DX）の加速】
オンライン服薬指導や電子処方箋の普及により、患者は自宅にいながら医師や薬剤師の指導を受け、薬を受け取ることが可能になりました。この変化に対応するため、薬局はITインフラの整備や人材の育成を進めています。特に、大手チェーンはDXを活用した業務効率化を進め、コスト削減とサービス向上を両立させています。

② 【地域包括ケアシステムへの対応】
少子高齢化の進展により、地域包括ケアシステムの構築が進められています。調剤薬局は、単なる薬の供給拠点から、地域住民の健康を支える「ヘルスケアハブ」へと役割が変化しています。特に在宅医療の分野では、薬剤師が患者の自宅を訪問し、服薬指導や健康管理を行うケースが増加しています。

③ 【人材不足と業務の効率化】
薬剤師不足が続く中、業務の効率化は重要な課題です。ロボットによる調剤やAIを活用した在庫管理、患者対応の自動化が進められ、人材不足を補うと同時に薬剤師がより対人業務に集中できる環境が整いつつあります。

今後の展望：持続可能な成長に向けて

今後、調剤薬局業界ではさらなる再編が予想されますが、単なる規模拡大ではなく、地域密着型のサービスと高度な専門性を両立させることが求められます。特に、患者一人ひとりに寄り添う「かかりつけ薬剤師」の役割が重要性を増し、質の高いサービスを提供できる薬局が競争優位を確立するでしょう。また、DXの進化により、患者の健康管理を包括的にサポートする新たなビジネスモデルも登場すると考えられています。

まとめ

2024年の国内調剤薬局業界は、M&Aによる再編とデジタル化の進展によって大きく変貌しました。今後は、規模の拡大だけでなく、地域社会に貢献し、患者に寄り添うサービスの提供が競争力の鍵となります。業界全体が持続可能な成長を遂げるためには、これまでの「量」から「質」への転換が求められます。