インバウンド需要の回復で化粧品業界は再び成長軌道へ
インバウンド需要の回復で化粧品業界は再び成長軌道へ
コロナ禍で意外な企業にもダメージが
コロナ禍で外食や宿泊、旅行関連の企業が大打撃を受けたことはよく知られています。
しかし、2021年2月にマツモトキヨシホールディングスとココカラファインが経営統合して誕生した会社、マツキヨココカラ&カンパニーの業績も、一時的に下降線をたどったことはあまり知られていません。
ドラッグストアが負の影響を受けたのはなぜでしょうか?
マツモトキヨシとココカラファインが負け組となった理由
コロナ禍はドラッグストアの業績を伸ばす起爆剤になりました。マスクや消毒液などの衛生用品だけでなく、日用品や食品の巣ごもり特需が生じたためです。
業界トップのウエルシアホールディングスは、2021年2月期の売上高が前期比9.4%増の9,496億円でした。コスモス薬品の2021年5月期の売上高は同6.1%増の7,264億円、スギホールディングスの2021年2月期の売上高は同11.2%増の6,028億円でした。
3社ともに増収となっています。
しかし、統合前のマツモトキヨシホールディングスは2021年3月期の売上高が前期比5.7%減の5,569億円でした。ココカラファインは2021年3月期の売上高が同9.3%減の3,664億円。2社は競合が特需に見舞われて増収となる中、減収となったのです。
この2社は都市部の繁華街に出店し、化粧品で稼ぐという戦略をとっていました。マツモトキヨシは海外観光客に特化した店舗を出店するなど、ドラッグストア業界の中でもインバウンドの獲得に積極的だった会社です。
渡航制限でインバウンド需要は消失し、行動制限を課されたことで繁華街からも人の姿が消えました。その影響を真正面から受けたのです。
目安となる3,000億円台回復間近
マツキヨココカラ&カンパニーの2023年3月期の化粧品部門の売上高は前年同期比6.5%増の2,976億円となりました。2021年3月期は2,807億円まで落ち込んでいましたが、コロナ禍を迎える前の3,000億円台間近の水準まで戻しています。
※決算説明資料より
マツモトキヨシはインバウンド需要の獲得で蓄積したノウハウをもとに、海外展開にも注力しています。2022年5月に香港に出店。この店舗は2階建で、売り場面積は792平方メートル。国外の旗艦店に位置付けられています。
香港店では、日本でも展開しているサプリメントバーを海外で初めて導入しています。常駐の薬剤師がサプリメントの提案をするというもので、日本式で海外の需要を開拓しようとしているのです。
同年12月にはグアムにも子会社を設立しました。
マツキヨココカラ&カンパニーはコロナ禍で株価は3,000円台まで低迷しましたが、現在は8,000円台で取り引きされています。インバウンドの回復に注目が集まる会社の一つです。
TSUBAKIを外資系ファンドに売却
化粧品会社はマツキヨと同じく、インバウンド需要の消失に苦しみました。
資生堂は2020年12月期の売上高が前期比18.6%減の9,208億円となりました。コーセーは2021年3月期の売上高が同14.8%減の2,793億円。2社ともに2桁減に見舞われました。
しかし、現在の業績は回復基調にあります。
コロナ禍の化粧品業界を驚かせた出来事といえば、資生堂が展開していた「TSUBAKI」や「uno」などの日用品事業を、投資ファンドのCVCキャピタルパートナーズに売却したこと。CVCは1,600億円で取得したと伝えられています。
資生堂はコロナ禍の急速な事業環境の変化により、売上拡大による成長重視から、収益性やキャッシュフロー重視の経営へと転換しました。
化粧品販売が利益率が高い一方、消費財は広告宣伝費を含むマーケティングコストが嵩む傾向があります。
資生堂はコロナ禍をきっかけとして、化粧品事業に経営資源を集中する体制をとりました。
ブランドポートフォリオを整理して経営資源を集中
資生堂は更なるスリム化を進めました。
2021年8月に化粧品ブランド「ベアミネラル(BAREMINERALS)」「ローラ メルシエ(LAURA MERCIER)」「バクサム(BUXOM)」をアメリカの投資ファンドに売却すると発表したのです。
資生堂はブランドのポートフォリオを拡大するため、2010年に「ベアミネラル(BAREMINERALS)」と「バクサム(BUXOM)」、2016年に「ローラ メルシエ(LAURA MERCIER)」を買収していました。
3ブランドの売上高は450億円ありましたが、ブランドの継続を断念しました。売却額は770億円。アメリカの投資ファンド、アドベント・インターナショナルに譲渡しています。
資生堂は同年4月に「ドルチェ&ガッバーナ ビューティ(DOLCE&GABBANA BEAUTY)」のライセンス契約を一部解消。徹底的なブランドの整理を行っていました。
2022年2月にはヘアサロン向けの業務用ヘアケア剤などを扱う「SHISEIDO PROFESSIONAL」などの事業を、ドイツのHenkel AG & Co. KGaAに譲渡しています。
大変革を遂げた資生堂が、どのような成長軌道を描くのか。トップランナーの行く末に注目が集まっています。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。