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運送・運搬 2022.9.21 配信

路線バス・貸し切りバス事業はどこへ向かうのか? 業界の課題とM&Aの現状

路線バス・貸し切りバス事業はどこへ向かうのか? 業界の課題とM&Aの現状

明るい兆しの一歩手前にいるバス業界


東京商工リサーチは、2022年1月から6月までの貸し切りバスの倒産件数が前年同期間と同じ9件になったと発表しました。これは1993年以降で最多の件数。このうち8件はコロナ関連の倒産で、インバウンド・観光需要の消失が甚大な影響を及ぼしました。

 

2022年2月に倒産した茨城県の貸し切りバス会社・総和観光は、地域密着型の経営スタイルで会社や町内会の旅行を中心にサービスを提供。それに加えて中国・台湾のツアー会社と提携し、貸し切りバスを運行していました。しかし、貸し切りバスは路線バスと異なり、観光需要を失うとキャッシュが途絶えて会社を維持できなくなります。総和観光は7億円の負債を抱えて破産しました。

上半期に倒産した会社は、負債総額が1億円未満の中小零細企業が中心。コロナ禍を持ちこたえる体力がありませんでした。

 

しかし、日本は2022年9月5日に1ドル140円を突破するなど、史上空前の円安を迎えています。日本は外国人旅行者に対する水際対策を行っているものの、世界各国の入国規制は撤廃されています。日本が門戸を開放するのも時間の問題。今後のインバウンドの盛り上がりに期待できます。多くのバス会社は景気回復の瀬戸際に立っているのです。

住民の足となる公共事業か収益性重視のビジネスか?路線バスのジレンマ


バス業界は大きく2つに分かれています。路線バスと貸し切りバスです。この2つの業界の現状と課題を説明します。

 

路線バスは2019年の営業収入が9,344億9,600万円でした。前年比2.2%の減少。路線バス業界は2013年に営業収入が前年比0.5%増の9,765億4,600万円となり、4年連続での増収でした。しかし、そこからは緩やかな下降線を辿っています。

ただし、路線バスの数そのものは増加しています。2019年は前年比1.8%増の61,542台でした。バスが増加している背景には、2006年の道路運送法改正で乗り合いバスの規制が緩和され、参入業者が増えたことがあります。事業者は2019年に2,321社となりました。改正前2005年の513社から4.5倍に増加しています。

※日本バス協会「日本のバス事業2021」より

 

マクロ視点で見ると、事業者数は増加して営業収益は減少しているため、1社当たり(またはバス1台当たり)が稼ぐ金額は減少していることになります。

2015年の実働1日1車当たりの営業収入は54,554円。2008年の64,115円から15.0%減少しています。

路線バスのビジネスが難しいのは、収益という視点と、人々の生活インフラとしての役割という視点があること。過疎地において、路線バスは住民の重要な足になっています。しかし、収益性を考えるとバス会社は減便・路線の見直しをせざるを得ません。

近年は自治体が運営するコミュニティバスや、スクールバスを乗り合い型にするなど、バスの形態は変化しています。

インバウンド需要とともに盛り上がる貸し切りバス業界


貸し切りバス2019年の営業収入は前年比8.0%減の5,276億5,200万円でした。中国では2019年から新型コロナウイルス感染拡大の影響が色濃く出ていました。その煽りを受けているのがわかります。

貸し切りバスの市場規模は路線バスの6割程度。ただし、コロナ前までは著しく伸びていた業界です。

 

※日本バス協会「日本のバス事業2021」より

 

2013年ごろから営業収入の上昇基調が鮮明になっていますが、これは訪日外国人が増加したタイミングとちょうど重なります。

 

※観光庁「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」より

 

訪日外国人数は2013年に初の1,000万人を上回りました。2016年には2,000万人、2018年には3,000万人を突破しています。インバウンドが貸し切りバス業界にとって好影響を与えているのがわかります。

 

なお、貸し切りバスの実働1日1車当たりの営業収入は、路線バスと大きく変わりません。2009年で52,226円でした。

 

運営会社の規模は路線バス、貸し切りバスともに大差ありません。半分以上が資本金1,000万円まで。中小零細企業が大部分を占めています。資本力に欠けているため、コロナショックのような環境の変化に耐えづらい特徴を持っています。

 

また、人材不足が深刻なのも特徴的。2019年の路線バス運転者数は83,834人。前年から186人の減少です。運転者数は3年連続で減少しています。貸し切りバス運転者の減少幅はもっと大きく、2019年は前年と比べて434人少ない47,678人でした。

 

バス業界は多くの会社で資本力に欠けており、慢性的な人材不足に陥っています。公共性が重視されることから減便をしづらく、事業を継続する体力が求められます。中期的には運転を自動化することは難しく、効率化を推進することができません。

M&Aによる再編が起こりやすい業界だと言えるでしょう。

事業と従業員をM&Aで守る


主なバス会社のM&Aを見てみましょう。

 

【神姫バスがグループ会社を再編】
2022年9月神姫バスが、グループ内の神姫グリーンバスとウエスト神姫を合併することを決定しました。事業運営上は対等合併となりますが、手続き上は神姫グリーンバスを存続会社とし、ウエスト神姫が消滅会社となります。合併後の社名はウイング神姫。合併の実施は2022年10月1日を予定しています。
このM&Aは運転手や車両などの経営資源を有効活用し、事業運営の効率化を図るもの。規模の大きいバスの運営会社は、小規模の子会社を数多く抱えているケースが散見されます。グループ内の組織再編は今後も加速するでしょう。

 

【京福バスが京福リムジンバスを吸収合併】
2022年4月1日京福電気鉄道の子会社京福バスが、京福電鉄の孫会社に当たる京福リムジンバスを吸収合併しました。京福バスを存続会社とする合併方式で、京福リムジンバスは解散します。
合併はグループの合理化と効率化を進め、営業力を強化する目的があります。
これも社内での再編を進めた事例です。

 

【高速バスを運行する海部観光が経営コンサルティング会社に株式を譲渡】
徳島と関西、東京を結ぶ高速バスの運営会社である海部観光は、2020年10月経営コンサルティングのナオヨシにグループ会社を含む株式を譲渡しました。
海部観光は新型コロナウイルス感染拡大で業績が急悪化。ナオヨシのもとで観光や物流など事業を拡大して収益性を高めるとしています。
海部観光は高速バスを1日19便ほど運行していましたが、コロナ後は運休・減便が続いていました。
観光需要の回復とともに多くのバス会社は収益性を取り戻すことができます。M&Aで事業と従業員を守った事例です。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。