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婚礼・ブライダル 2021.10.27 配信

藤田観光の経営戦略と結婚式場「太閤園」売却で再建を狙う理由

※写真はイメージです

藤田観光の経営戦略と結婚式場「太閤園」売却で再建を狙う理由

創価学会への売却で329億円の利益


結婚式場やホテルを運営する藤田観光が、25,000㎡もの広大な日本庭園を持つ老舗の名門結婚式場「太閤園」を創価学会に売却しました。藤田観光は太閤園の売却益として329億円を計上しています。太閤園は藤田財閥の総帥藤田伝三郎が建てた藤田邸がもとになっており、2019年にはG20大阪サミットの閣僚会合の会場にもなった超名門の施設です。藤田観光はなぜこれほど歴史的価値の高い土地と建物を売却しなければならなかったのでしょうか。
この記事は、藤田観光の業績悪化の背景を軸に売却理由へと迫る内容です。

成長戦略の柱に置いていたホテル事業が新型コロナウイルス感染拡大で大打撃


藤田観光は1964年4月に上場した国内屈指の名門企業で、結婚式場の他、ホテルやレジャー施設などを運営しています。主力となる結婚式場は東京都文京区の椿山荘。そして大阪府大阪市の太閤園でしたが、売却によって2021年6月に閉館されています。そのほか、ビジネスホテルのワシントンホテルや、「ユネッサン」で知られる箱根小涌園が運営する主な施設です。
藤田観光は新型コロナウイルス感染拡大、緊急事態宣言の影響によって2020年12月期の売上高が前期比61.4%もの減少となり、224億2,700万円という巨額の純損失を計上しました。

■藤田観光業績推移(単位:百万円)

決算短信をもとに筆者作成

コロナ前の売上高が同規模で、結婚式場を運営する大手企業テイクアンドギヴ・ニーズの2021年3月期の売上高は前期比68.5%減の200億4,400万円、純損失は162億1,400万円でした。テイクアンドギヴ・ニーズの決算期は3月なので、通期の決算においては藤田観光よりもコロナの影響を長く(テイクアンドギヴ・ニーズが約1年、藤田観光が約10カ月)受けたことになります。それにも関わらず、なぜ藤田観光の方が売上高の減少幅が大きく、損失額を膨らませているのでしょうか。
藤田観光はインバウンド景気が盛り上がっていたことを理由に、結婚式場よりもホテル運営に力を入れていました。それが最大の要因です。
コロナ前の2019年12月期の事業別の業績を見ると、ホテル事業以外はすべて赤字です。椿山荘や太閤園はかつて大量の婚礼客を迎え入れていましたが、今は少子化や結婚式を挙げないナシ婚化が進んだほか、ゲストハウス型の結婚式場や海外ウエディングが人気となっていたため、集客力を失っていました。

■藤田観光事業別売上高と利益(単位:億円)

決算短信をもとに筆者作成

ビジネスホテルからインバウンド向けホテルへの転換


しかも藤田観光はビジネスホテルからインバウンド向けのホテル開発を進めていました。2019年に新しく立ち上げたホテルブランドが「タビノス(HOTEL TAVINOS)」です。2019年は翌年に東京オリンピックの開催が予定されており、円安などを背景とした海外観光客の需要が旺盛でした。観光庁によると、2019年の外国人旅行者数は過去最高となる3,188万人にも上っています。
ホテル経営は、家賃や建設・設備投資費の減価償却など固定費が高くなります。宿泊客が多く、ホテルが高回転している間は利益が出やすいですが、宿泊需要がなくなると赤字額が大きくなる傾向があります。コロナでホテルの需要が蒸発し、藤田観光のホテル事業は2020年12月期に136億円超もの赤字を出しました。

※2018年12月期決算説明資料より

コロナ前は星野リゾートもインバウンド向けホテル「OMO」を開発しており、業界全体が海外観光客の獲得に力を入れていました。ホテル企業にとっては、需要が旺盛だというだけでなく、ビジネスホテルと違って立地条件が悪くても宿泊客が獲得できることや、手厚いサービスが不要なことも開発に前向きだった背景にあります。極めて理にかなった戦略だったと言えます。
2020年の海外観光客数は412万人と87.1%も減少してしまいました。旅行、宿泊、婚礼の需要緊縮を受け、藤田観光は事業の再構築を迫られました。東日本橋や浅草橋のタビノス出店を中止、ホテルグレイスリー台北も開業費用を圧縮するなど、出店計画を見直します。
また、早期退職者を募集して315名がこれに応じました。管理職を対象に基本給を5%、全従業員を対象に基本給を3~16%減額するなど、厳しい経費削減策をとりました。

薄利で自己資本比率が低かった藤田観光


藤田観光が矢継ぎ早に経費削減や計画の見直しを進めたのには理由があります。抱えている事業の多くが赤字体質で、利益率が低い状態が長く続いていました。そのため、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年12月末時点で自己資本比率が25.4%でした。自己資本比率は30%以上が望ましいとされており、適正水準を割り込んでいました。藤田観光は財務体質がぜい弱だったのです。
2020年12月期に224億2,700万円という大赤字を出したことにより、2020年12月末時点で自己資本比率は1.2%にまで急悪化。債務超過一歩手前の瀬戸際にまで追い込まれました。自己資本が薄くなっているので金融機関からの借り入れはできません。手持ちの資産を売却するか、資本性のある資金調達をするほかなかったのです。藤田観光は太閤園の売却を選びました。
売却益は329億円で、売却額は390億円程度だったと見られています。
太閤園がある大阪府大阪市都島区網島町の坪単価は概ね165万円です。太閤園は2,500㎡なので7,563坪ほど。単純計算をすると125億円ほどの価値となります。マンションなどのディベロッパーに売却したとしても、この2倍程度が限度です。創価学会の買収額は市場価格よりも高めでした。太閤園は歴史ある建物であり、世界の要人が集った場所でもあります。創価学会は大阪に大規模な拠点を構える計画を長年立てており、多少高値であっても日本を象徴する施設の一つ太閤園がそれに相応しいと判断したものと考えられます。
今後は敷地内に講堂を建設し、全国有数の活動拠点とする予定です。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。