「伊藤忠、手を引く」

それはまるで人間ドラマのような買収劇

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春先の風がまだ冷たかった頃、セブン＆アイホールディングスのMBO（マネジメント・バイアウト）計画がニュースを賑わせた。企業のトップ自らが主導する買収劇。なんだかドラマのようで、私たち一般の人間には遠い世界の話のように思える。けれど、そこに関わるのは同じ人間。意外と、日常のあれこれと通じるところがあるのかもしれない。

さて、このMBO計画を巡っては、いろんな企業が関わっていた。その中のひとつ、伊藤忠商事。伊藤忠といえば、日本有数の総合商社で、食からエネルギー、ファッションまで、私たちの生活に密接に関わる企業だ。そんな伊藤忠がこの計画に興味を持ち、話に乗る気配を見せていた。

けれど、最終的に彼らは手を引いた。

冴えわたる商売人の勘

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なぜだろう。

理由はいくつかあるらしい。まずひとつは、MBOの枠組みが変わってきたこと。当初、経営陣と組んで企業価値を高めていくような話だったのが、いつの間にか「どこまでこの買収にコミットするのか」という難しい話にすり替わっていったのかもしれない。

もうひとつは、伊藤忠の「商売人」としての感覚。商社は、投資をするときも「これは儲かるのか？」という冷静な視点を持っている。今回のMBO計画は、最終的にどれだけのリターンがあるのか、どこまで関与することで自分たちのビジネスが良くなるのか。そのバランスを見たとき、どうやら「割に合わない」と判断したのだろう。

それに、伊藤忠といえば、すでにファミリーマートを持っている。流通業界でのシナジーを考えれば、セブン＆アイとの関わりを深めることが本当に最適解だったのか、疑問もあったのかもしれない。

つまり、ちょっとした「相性のズレ」。

ビジネスの世界では、「いい話だから乗っかる」というより、「自分たちにとって最善か」を常に考えなければならない。たとえば、仲のいい友達と旅行の計画を立てたけれど、途中で「このスケジュールは自分にはちょっとハードすぎるな」と思って抜けるような感覚に近いのかもしれない。

伊藤忠が手を引いたことで、このMBO計画の行方はますます複雑になってきた。でも、企業も人と同じように「これは自分に合っているか？」を考えながら動いているのだと思うと、少しだけ身近に感じられる。

そして、この「手を引く」という選択が、今後どんな波紋を広げていくのか。春の風とともに、そっと見守っていきたい。