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保育・教育 2025.12.12 配信

男性育休がもたらす保育園パラドックス ―
需要増と経営難の同時解決できるか?

はじめに


厚生労働省の「令和6年度雇用均等基本調査」で、2024年度の男性の育休取得率が4割を超えました。前年度は3割であり、1年で1割も増加したのです。

政府は仕事と育児が両立できる、働きやすい環境づくりを整備してきました。
2025年にも育児両立支援制度に関連する法改正が行われ、育児休業は更に取得しやすくなります。

女性の社会進出に伴い、働きながら子供を保育園などに預ける流れが一般的になってきたものの、家庭と仕事の両立が難しく、出産を機に仕事を諦めて専業主婦になる女性も少なくありません。

しかし、男性の育休取得率が上がると、子育てを夫婦で行う共育をすることで女性の職場復帰の可能性が広がり、保育園の利用率が増える可能性があります。

ところが、実情は、男性育休の増加が女性の社会進出を助け、保育需要を増やす一方で、保育園が経営難や倒産が増加しているという矛盾が起こっているのです。

ここでは、保育園の需要増と経営難というパラドックスを同時解決することができるのか考えていきたいと思います。

1. 男性育休増加に伴い制度の整備は進み、保育園の需要は増加へ


1-1. 男性公務員の育休取得率85%目標の方針が全業界に波及するか!?

今後、高市首相のもとで育休取得率は更に進む可能性があります。
というのは、高市首相が総務大臣であったころの働きかけもあり、2023年度の男性地方公務員の育休取得率は2020年の13%から47.6%まで、飛躍的に上昇しました。

高市首相はワークライフバランスを配慮する一面もあり、国と地方公務員の男性育休取得率の政府目標は、2030年までに85%まで引き上げることであり、それが全業界に波及する可能性も大いに考えられるでしょう。

1-2. 子供が生まれても職場復帰がしやすい環境に

2025年の法改正で、子供の看護等休暇が「小学校就学の始期に達するまで」から、「小学3年生修了まで」に延長。残業免除の要件が「3歳に満たない子」から「小学校就学の始期に達するまで」に緩和されました。
その他、テレワークなど柔軟な働き方を実現するための措置を講じるよう、事業者側に義務づけています。

そして注目すべきは、仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が事業主の義務になったこと。
これにより、従業員は自らの意向に沿った働き方を選択しやすくなりました。
子育てをしながら仕事を続ける、という選択肢が広がり、これまでもっぱら女性側の話であったのが、男性にも反映されるようになりつつあります。

1-3.環境は整い保育園の需要は増加傾向

環境は整い保育園の需要は増加傾向

男性の育休が進むと、女性も働きながら子育てをしやすくなり、夫婦共働き世帯が増えていく可能性が大きくなります。
しかし、そのためには、子供の受け皿となる保育園が欠かせません。

政府は「子ども・子育て支援法」に基づき、幼児教育・保育・地域子育て支援の質と量の拡充を進めてきました。
2024年における待機児童の数は2567人で、前年比113人の減少。待機児童のいる市区町村は前年から14減少して217市区町村となりました。
2024年末までに必要な保育の受け皿の拡大量の見込みは4.2万人分となっています。

受け皿の数はまだ足りていません。

1-4.まるで保育園バブル

保育園の絶対的な数が足りず、いまだに待機児童を完全になくすことができていない状況の原因として、最も多いのが保育人材が確保できないこと。
働き手が足りないほど需要が多い。これはまるで保育園バブルのような状態ですが、実際は、そのような明るい話ではありません。

保育士の退職や育休で定員までの受け入れができない、保育士不足で保育所の開設が延期になったなど、人材不足は深刻です。

男性育休の影響はこんなところにも出てきます。
保育園では、女性保育士だけでなく男性保育士が育休を取得することも考えられますが、それも人手不足の一因となっていく可能性もあります。

こども家庭庁は2025年に初めて保育人材確保の実態調査を行いました。
その調査によると、人材不足を感じているかどうかで「とても感じている」との回答は42.7%にも及んでいます。
人手が少ないために職員の休暇調整が難しく、代替職員の確保もできないといいます。

こども家庭庁は、政府が取りまとめる経済対策の中で、保育士の人件費を5.3%引き上げることを盛り込みました。
待遇改善による人手不足解消に政府も本腰を入れています。

これまで、低いと言われてきた保育士の報酬が上がり、保育園自体の需要が増えれば、本格的なバブルとなるのかもしれませんが、その道のりは決して短くはありません。

2. 保育園の倒産は3年連続で増加という厳しい現実も


厳しい現実も待ち受けています。

帝国データバンクによると、2025年上期に発生した保育園運営事業者の倒産、休廃業件数は22件。前年同期間の13件を大幅に上回り、通年で過去最高を更新する模様です。

入園を希望する児童の獲得競争の激化、人材不足、食材価格など原価高騰が経営を圧迫しています。
2023年における保育園運営事業者で、減益だった割合は25.2%。赤字が29.1%でした。
業績悪化の割合は54.3%を占めており、競争激化とインフレの影響は甚大です。
そこに慢性的な人手不足が重なり、倒産へと至るケースがあるのです。

2-1.赤字事業者の特徴は?

赤字の保育園の7割は定員割れだと言われています。
認可保育園の収入の9割は園児数に応じた公定価格で算出されます。
特に0~2歳児の単価が高く、欠けた場合の影響が大きいのです。

定員割れは人口減少、少子化の影響も大きいですが、都市部の多くは競合の保育園の開設です。
立地が悪い、口コミの評価が低い、建物の老朽化が進んでいる。このような保育園は敬遠される要素が大きくなります。

つまり、人気のある保育園とない保育園が二極化してしまっているのです。

都市部の保育園の場合、家賃の売上比率が20%~30%と高くなりがちですが、一般的には15%程度が目安と言われています。
高額な家賃に耐えられず、赤字になるケースもあります。

■保育園運営事業者が赤字の要因

  • ・人員不足によるサービス低下による人気低下
  • ・設備老朽化により人気低下
  • ・物価や家賃高騰
  • ・少子化
  • ・保育士低賃金による従業員離職
  • ・幼稚園の延長保育サービスで保育園のライバルとなってきた
  • ・サービス競争で予算が少ない保育園に人気がなくなる
  • ・後継者不在による経営続行困難

人材不足やサービス力の低下などによる赤字経営に苦しんでいる場合は、M&Aで解決するケースがあります。

保育園の赤字要因

3. M&Aで保育事業に参入する企業も


保育園の需要増と経営難による倒産というパラドックスを両方一度に救うことができる方法の一つがM&Aです。

・需要が供給に追い付く
1つの保育園が単体で経営するのではなく、チェーン展開することで、人材を補充し合うことができれば、人手不足も解消でき、需要が供給に追い付いていくことができます。

・設備投資やサービス拡充
また、老朽化した設備を刷新することや、幼稚園なみの教育やサービスを行うことで
定員割れした保育園の人気を回復する可能性もあるでしょう。

M&Aで保育事業に参入する会社は数多くあり、資本力のある会社の傘下に入って人材不足の解消やサービス力の底上げ、事業の拡大を行う会社は数多くあります。
業界の地殻変動が起こっているのです。

4.保育園のM&A事例


4-1.学研から保育事業を買収したダスキン

ダスキンは2023年10月に学研ホールディングスの傘下にあったJPホールディングスの株式を取得。持分法適用関連会社化しました。
JPホールディングスは保育園や児童クラブなどを306施設(買収当時)運営している会社です。

ダスキンは「喜びのタネまき」という経営理念を掲げており、JPホールディングスの「こどもの笑顔」というメッセージと整合性の高い会社。保育や子育て支援という社会貢献を重視したのです。

ダスキンは清掃業が主軸ということもあり、施設運営におけるシナジー効果にも期待ができます。

4-2. ITソリューションのSHIFTがM&Aで保育DXを本格化

システム開発などを手がけるSHIFTは、2023年8月に保育園の運営などを手がけるインフォニックを買収しました。
デジタル化が遅れている保育業界に一石を投じるM&Aでした。

SHIFTはすでに幼稚園、保育園、スイミングスクールなどへのITサービスを提供していました。
しかし、実際の保育の現場で何が課題になっているのか、どんな要望があるのか、いかなる障壁があるのかはなかなか見えてきません。

子会社化することにより、潜在的なデジタルニーズを引き出すことに期待ができます。
現場で培ったノウハウを横展開し、成長に弾みをつける狙いです。

4-3.物流会社が保育事業強化のM&Aに邁進

物流会社のセンコーグループホールディングスは、関西圏で保育事業を行うセリオホールディングスにTOBを実施し、2024年3月に成立。セリオは上場廃止になりました。

センコーは「モノを運ぶ」という単一事業から、「人々の暮らしを支える」という事業の多角化へと舵を切りました。
そうした中で取り組みを開始したのが保育事業。関東圏を中心にM&Aで事業基盤を構築しました。

セリオの買収により、関西圏に進出することになります。

M&Aによって保育事業の会社を複数傘下に入れることにで、優れたノウハウの吸収や人材の交流を活発化させることができます。

5.保育園買収を検討する際のポイント


保育園はやや特殊な事業内容のため、チェックすべき項目は一般的な企業とは異なります。
ここでは、注目すべき6つのポイントをご紹介します。

5-1.保育需要

事業や園そのものの問題ではありませんが、そもそも注目すべきは保育需要の有無です。

基本的には人口推計と認可定数で需給が決まります。
ここに競合の数を掛け合わせて大まかな予測を立てます。

首都圏や政令指定都市は比較的需要が堅調でしょう。
再開発で大型のマンション建設が計画されている、分譲地の開発が始まったなどの情報も重要です。

保育園の場所は都道府県ではなく、市区町村単位で細かく分析してください。

5-2.監査の状況

「監査の状況」は財務チェック以上に気を配るべきものです。

保育園は原則1年の「立ち入り調査」や必要に応じて行われる「特別調査」、「巡回支援指導」があります。
設備や運営基準が遵守されているか、保育環境が健全であるか、事務処理は適切に行われているかをチェックするのです。
補助金・助成金などが不適切に処理されていないかも厳しく調査されます。

「特別指導」「厳重注意」などの処分が下されていないか、補助金などの返還実績がないかを必ずチェックしましょう。
過去5年程度の指導監査結果、指導監査の改善報告書の提出の有無などを確認してください。

認可保育園の場合は認可書類一式、施設の配置基準の適合性、定員数・年齢区分の適法性もチェックすべき内容です。

5-3.保育士・従業員の離職率

保育士など従業員の離職率は適切な労働環境が整っているかのバロメーターとなります。
特に保育園の場合、年度内の安易な離職は園児さらにはその両親に迷惑がかかることにもなるため、できるかぎり避けるべきものです。
保育方針が充実しており、マネジメントの層が厚く労働環境が良好なものであれば、離職率は低いはずです。

厚生労働省によると、保育士の3年以内の離職率は9.3%。全業種平均の15%より低くなっています。
離職率の判断は、保育士の離職率のデータを参考にしてください。

園長の経験年数も確認するといいでしょう。

5-4.拡大余地

園舎の面積やトイレの数、認可外から認可へのステップアップする余地があるかなど、成長の潜在性があるかどうかもポイントの一つ。
定員を拡大できる保育園であれば、業績の改善余地があると判断できます。

保護者のクレームや口コミも確認してください。良好なものであれば、伸びしろは大きいと判断できます。

5-5.財務

持続的な経営を行ううえで、財務状況が健全なことも外せません。

保育園の財務資料で見るべきポイントは、以下の通りです。

  • ・1人当たりの収益
  • ・年齢階層別の稼働状況(0~2歳児は高単価)
  • ・委託費・外注費
  • ・人件費率(6割以内が理想的)
  • ・補助金返還リスク
  • ・キャッシュフローの健全性(補助金支給のタイミング)

5-6.法務

法的なトラブルを抱えていないかを重点的に確認するのは、一般的な企業買収と同じです。

土地・建物の賃貸借契約、サブリース契約の有無、給食・清掃などの委託契約書の内容、関連会社や役員の取引で利益相反がないかなど、一通り確認します。

労務訴訟や残業代、社会保険料の未払いがないか、保護者と契約上のトラブルを抱えていないか、過去に事件や事故を起こしていないかも確認してください。

6.保育園譲渡を検討する際のポイント


経営者の高齢化や人手不足、業績の悪化などで保育園の売却を検討するケースも多くなっています。
特に物価高騰や人手不足で、理想的な保育の質を維持できないことに苦しみ、事業を手放そうと考える経営者は少なくありません。
M&Aは保育園を持続させ、児童や保護者、従業員を安心させる有効な手段です。
買収を希望する企業の多くは、すでに掲げている理念や保育方針を踏襲するケースがほとんど。園の方向性が急に変わって関係者が戸惑うことは少ないでしょう。

とはいえ、大切な園の行く末に不安を感じるのは当然です。

M&Aの一番のポイントは相手選び。M&A仲介会社は、膨大な企業ネットワークの中から専門のコンサルタントが最適なパートナーを探してくれます。
まずは相談することをお勧めします。

保育園は年度で動いているため、M&Aを実行する時期は限られます。
従って、事業運営に即したスケジュールの策定が重要です。
また、後継者不足なのか、施設の老朽化が進んでいるのか、人手不足が深刻なのかなど、課題解決に寄り添った買収相手を探す必要があります。

そのため、膨大な企業ネットワークの中から最適な相手を見つける必要があるのです。

まとめ


男性の育休取得率が上がり、女性の職場復帰を前提とした家族計画が当たり前のものになってきました。
それに従い、保育園の需要は増加すると見られています。

一方でインフレや人手不足が経営を圧迫し、存続が危ぶまれる保育事業者は少なくありません。
男性育休制度が充実しつつある今、需要増と経営難というパラドックスが発生しています。
廃業や倒産を選択する前に、M&Aを検討してください。
M&A仲介会社が適切なアドバイスを行います。

もしかしたら、最良のパートナーが見つかり、持続可能な保育園の道が開けるかもしれません。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。