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M&A一般 2025.10.24 配信

株主は何人いますか?
~中小企業のM&Aにおける株式集約の必要性~

はじめに


「御社の株主は何人いますか?」

M&Aを決意してM&A仲介業者に足を運んだ中小企業の会社経営者A氏は、まずこのように聞かれました。
A氏は「私と副社長と専務、それに亡くなった先代オーナーの相続人の家族たち。あ、あと、一部の従業員にも少しずつ持たせています。」と答えました。

すると、仲介業者のコンサルタントは「そうですか…。」と少し戸惑った様子でした。

株式が複数の株主に分散している状況は、M&A取引において様々な問題を引き起こす可能性があります。
買収プロセスの複雑化、取引コストの増加、統合後の経営効率の低下など、その影響は多岐にわたります。

従って、事前に株式を一か所あるいは限られた数に集約させることが求められます。
ここでは、株式が分散することのリスクと集約の必要性や方法について解説いたします。

1. M&Aにおける株式分散のリスクと株式集約の必要性


M&Aを進める際、売り手側の企業にとって大きな課題の一つとして株式の集約が挙げられます。

中小企業ではオーナー社長が大半の株式を保有しているケースが多いのですが、親族や役員、古くからの従業員に株式が渡っていることも少なくありません。

このように株式が分散していると、M&Aの交渉や最終的な契約の場面で大きな障害となる可能性がありますから、事前に株式を集約させておくことが重要です。
株式が分散していると以下のようなリスクが発生します。

1-1.意思決定の遅れ

M&Aの交渉をスムーズに進めるには、節目節目で必要な株主総会での同意をスムーズに得られるかが重要です。
株主が多数いる場合、反対する株主の持ち株数によっては交渉が停滞することがあります。
特に感情的な理由で反対されると、合理的な説明では解決できないこともあります。

1-2. 価格や条件交渉の複雑化

株主ごとに期待や希望が異なれば、売却価格や税務上の取扱いなどさまざまな条件面に不満を持つ人が出る可能性があり、個別交渉や説得が必要となる場合もあります。
その結果、買い手が不安を感じて交渉から撤退することさえあります。
M&Aでは株主の足並みの乱れは大きなマイナスです。

1-3. 少数株主による権利行使のリスク

たとえ少数の株式しか持っていなくても、株主には一定の権利が認められています。
例えば株主総会での反対権や、株式買取請求権の行使などによって、手続きが複雑化する恐れがあります。

少数株主であっても、買い手企業から見れば100%株式を取得できない可能性があれば、リスクとして評価され、条件が不利になることがあります。

しかも、少数株主が多数いる場合、その比率が過半数超える場合はさらに要注意です。

【事例】少数株主の反対意見で交渉停滞
ある製造業を営む中小企業は、代表取締役が55%の株式を持ち、残りは古参役員や退職した社員に分散していました。
M&Aで買い手企業からは高い評価を受けて譲渡契約が目前まで進んでいましたが、複数の役員や退職した株主たちが「この契約内容では売却するのは反対だ。この条件なら自分の株は売らない。」と強硬な態度を示しました。

役員や退職した株主たちは個々の持ち株比率は多くはないものの、合計すると45%にもなるため、無視はできず、交渉は一時中断。
最終的には代表取締役がその株を時価相当の価格で買い取ることで合意に至りましたが、調整に半年以上を要し、代表取締役は余計な出費を余儀なくされました。

場合によっては、少数株主が「自分の意見が通らないなら株は売らない」と言う武器を持っていますから、株の集約がいかに大切かわかると思います。
※ただしその場合の対策は後程明記します。

2. 買い手は株式の分散をどう思うのか?


買い手の立場では株式の分散はどのように映るのでしょうか?
M&Aには入念な交渉の戦略を練って臨みます。
ですから、交渉相手である売り手の意見が割れてしまう事、あるいは、話がスムーズに流れていたのに、途中で横やりが入って流れが変わってしまうことを恐れます。
それも、交渉相手が一人または、全く同意見の少数人数の場合は円滑な交渉が期待できますが、株式が分散して、意見が多岐に渡る場合、どのように思われてしまうのでしょうか。

2-1. 交渉の難化やコスト増大を懸念

買い手企業はM&Aを行うに当たり、別々の考えを持った交渉相手が複数いた場合、交渉が難化することが予想されます。
交渉の難易度が上がれば、当然のことながら、専門家への報酬額も上がってしまいますから、コストの増大につながります。
また、場合によっては少数株主との個別交渉も必要となりプロセスの長期化も覚悟しなくてはなりません。

2-2. 少数株主とのトラブルのリスク

もし、株式が分散したまま交渉が進めば、どうしても売却したい大株主が契約内容に賛同していたとしても、売却に消極的な少数株主の反対に合う可能性があります。
そして、最悪破談もいとわない少数株主によって、譲渡価格のつり上げを要求されるリスクがあります。
もし、少数株主が残存したままM&Aを完了すれば、その後の経営への関与も心配しなくてはなりません。

2-3. 株式の集約済み会社と比較

もしも、株式集約済みの同じような条件の他の会社が存在した場合、買い手はそちらと比較して天秤にかけることになります。
そうなれば、より交渉がスムーズに進みやすい株式集約済みの会社を選ぶことになるでしょう。
せっかくのいい条件でのM&Aのチャンスを逃すことにもなりかねません。

3. 株式集約の5つのパターンと対処法


株式の集約も、分散したパターによりその特徴や集約の進め方も異なります。
特に、相続や親族間での分散の場合は難しいケースも少なくありません。

【事例】親族間の分散~最も難しいケース~

51%の株を保有する創業者社長が亡くなり、老妻と3人の子供が会社の株式を相続しました。
老妻は「夫が苦労して創業した会社の株なので絶対に手放したくはない」と考えています。
さらに、相続していた子供のうち息子が亡くなり、その妻と子供2人が相続したものの、妻は入院中、子供は海外に在住しており、連絡がつきにくい状態です。

残りの娘たちは、株式の知識は全くなく、どうしたものか夫や別の親族に相談しています。
このような複雑なケースでは、交渉に長い時間がかかることが想定され、最悪の場合、買い取りが難しいものとなります。
そのような場合でも、時間がかかってお道が開ける場合もありますので、早めに専門家に相談してみることをお勧めします。
ここではパターン別の集約の特徴と対処法についてご説明します。

3-1. 創業時の株主からの買い取り

<特徴>

・創業メンバーや初期投資家が持つ株式
・お金の問題だけでなく「思い」も込められているため、感情面への配慮が必要

<進め方>

・株価を決める:専門家に依頼して公正な価格を算出

・話し合い:これまでの貢献を認めつつ、相手が納得できるよう丁寧に交渉

・契約書作成:後でトラブルにならないよう、しっかりした契約書を作成

3-2. 従業員・役員からの買い取り

<特徴>

・ストックオプションや従業員持株会で取得した株式
・退職後も持ち続けている場合が多く、会社との関係が薄いと交渉が難しい

<進め方>

・株価を決める:企業価値を示しつつ、関係性を考慮した柔軟な価格設定
・話し合い:株式買取と併せて、今後の取引条件も再確認
・契約書作成:株主の変更に伴う登記や名簿の更新を確実に実施

3-3. 過去の資金調達で参加した投資家からの買い取り

<特徴>

少額投資家や取引先企業が保有
お金の問題だけでなく、今後の取引関係も考慮が必要

<進め方>

・株価を決める:企業価値を示しつつ、関係性を考慮した柔軟な価格設定
・話し合い:株式買取と併せて、今後の取引条件も再確認
・契約書作成:株主の変更に伴う登記や名簿の更新を確実に実施

3-4. 親族間での相続・売買による分散

<特徴>

親族が複数関わっている複雑なケース(特に株式に関する知識がほとんどない場合)
何度も相続が行われたケース
利害関係の対立や相続税の影響で調整が困難

<進め方>

・株価を決める:相続税評価額と企業評価額の両方を確認
・話し合い:親族間での合意を最優先。必要に応じて調停や仲裁も検討
・契約書作成:遺産分割協議書や株式譲渡契約をしっかり整備

3-5. 株主名簿が整備されていない場合

<特徴>

連絡が取れない株主がいる状態
株式集約を進める上で大きな障害となる

<進め方>

・現状把握:まず株主名簿を最新の状態に更新し、誰が何株持っているかを明確化
・話し合い:連絡が取れた株主とは速やかに協議を開始
・法的手続き:連絡が取れない株主には、法律に基づいた供託・公告などの手続きを実施

4.分散防止のための事前対策


創業当初からM&Aを想定して株式の分散をさせないことを意識することは現実的ではありませんが、M&Aを考え始めたら、定款や株主間契約などの見直しを行うのも一つの方法です。

定款による「譲渡制限」の規定

非上場株式であれば、株式の分散を予防する最も基本的な方法は、定款における「株式譲渡制限条項」を定めておくことです。

株式譲渡制限条項とは株主が自社の株式を第三者に譲渡する場合、取締役会の承認を必須とするという条項で、会社が意図しない第三者への株式移転を防止できます。
これにより会社は常に株式構成を把握しておくことができます。
(上場株式は株式市場で自由は売買が行われるので原則的にはこの条項は存在しません)

ただし、株主が死亡し、相続が発生したことにより、相続人に株式が移転した場合は、会社の承認なく株式は相続人へ譲渡されます。

定款による「売渡請求権」の規定

しかし、その場合でも、「譲渡制限株式を保有する株主の死亡による相続の場合、会社よりから相続人に対して相続した譲渡制限株式の売渡請求ができる」という条項を定款に定めることにより、意図しない第三者への譲渡を防ぐことは可能です。

この条項を定款に定めるには、一定の要件がありますから、弁護士などに相談の上定款に盛り込むことをお勧めします。
また、売渡請求は自動的に行われるわけではなく、株主総会の特別決議が必要となります。

株主間契約

株主間契約とは株主同士で結ぶ契約のことです。
定款とは別に株主の間の私的な約束ごとという位置づけとなります。
株主が株式を譲渡する際に他の株主に優先的に買い取る機会を提供するルールを設定しておくことで、第三者への流出を防ぐことができます。

スクイーズアウト(強制的少数株主の排除)による少数株主の排除

「スクイーズアウト」という強制的に少数株主の株式を買い取る方法があります。
スクイーズアウトにの代表的な方法には、以下の4種類の方法があります。
会社の状況に応じて使い分けることができますが、株式を買い取る場合の価格については時価など適切な価格設定とする必要があります。

─特別支配株主の株式等売渡請求─
議決権の90%以上を保有する特別支配株主は株主総会での決議を必要せず、取締役会、または、取締役の過半数の同意(取締役会非設置会社の場合)、少数株主の株式を買い取ることができます。

─全部取得条項付種類株式─
株主総会の特別決議により、会社が特定の種類の株式の全てを強制的に買い上げられる特殊な株式のことです。

─株式交換─
子会社と親会社の株式を交換する際に、交換比率を調整し、少数株の効力をなくした上で、株式を買い取る方法です。

─株式併合
複数株式を併合することで少数株主の株式を端株にし、効力をなくした上で買い取る方法です。

5. 株式集約を行うタイミング


株式の集約は早ければ早いほどいいことは言うまでもありませんが、そうは言ってもM&Aを行うタイミングで、集約の必要性に初めて気づく場合もあるかと思います。

5-1. M&A検討段階での集約

M&Aを検討し始めてから株式集約を行う場合のタイミングと注意点について説明します。
どの方法を使うにしても株式の集約には一定の期間が必要となります。
ですから、その期間にM&Aの交渉が始まってしまった場合、交渉が難航する場合もあります。

基本合意までには目途を立てておく

M&Aの基本合意を締結するまでには、株式集約の目途を立てておく必要があります。
買い手企業によるデューデリジェンス(買収監査)が始まる前に、株式集約を完了しておくことが重要です。
デューデリジェンスの過程で株式分散の問題が発覚すると、交渉が停滞する可能性があります。

M&Aの交渉と株式の集約の平行処理

M&A交渉と並行して株式集約を進める場合、そもそもM&Aに関わる関係者の数は限られていますから、両方のプロセスが複雑化し、管理が相当困難になる可能性があります。
可能な限り、株式集約を先行して完了させることが望ましいです。

もし、並行する場合、売り手側で一致した意見をまとめられれば理想的ですが、特に日ごろ経営に関わっていない株主などは、会社としての利益より、個人の利益を優先するあまり、契約内容に賛同しない場合も多々あります。
その場合は、早期に時価の算出をして、適切な価格での買い取りの提案をするなどが考えられます。

5-2. 最終段階まで株式集約できない時の対応策

どうしても事前に株式集約を完了できない場合の対応策について説明します。

段階的クロージングの採用

M&Aを段階的に実行し、第一段階で主要株式を譲渡し、第二段階で残りの株式を集約して最終的な譲渡を行う方法です。複雑になりますが、M&A実現可能性は高まります。

表明保証の強化

売り手企業が株式集約を確実に実行することを契約書の表明保証で明確に約束し、結果的に違反した場合の賠償責任を明確化します。
法的拘束力を持たせることで、買い手企業の不安を軽減できます。

まとめ


株式が複数の株主に分散していると、M&A交渉において意思決定の遅れ、価格交渉の複雑化、少数株主による権利行使などのリスクが生じます。買い手企業は交渉の難化やコスト増大を懸念し、株式集約済みの他社を選ぶ可能性があります。

株式集約の方法として、創業株主・従業員・投資家からの買い取り、親族間での調整、連絡不明株主への法的手続きなど5つのパターンがあります。

事前対策では定款による譲渡制限や売渡請求権の規定、株主間契約、スクイーズアウトによる強制排除が有効です。
株式の集約はM&A基本合意前に完了させることが理想的ですが、困難な場合は段階的クロージングや表明保証の強化で対応できます。

執筆者 経営支援・WEBコンサル・WEBコンテンツライター 白河 真琴

中小企業の経営のサポートの経験を活かしながらコンテンツライターとして活動中。
自身の会社のM&Aの経験から企業法務やM&A関連の執筆を中心に行っています。