トップページ
案件情報
M&Aとは
M&Aオールが選ばれる理由
業界特化M&A
ご相談の流れ・料金
M&Aの実例・インタビュー M&Aコラム よくあるご質問
まずはお気軽にご相談ください
IT・通信系 2025.11.5 配信

旧村上ファンドがフジ・メディアホールディングスの筆頭株主に!
メディア帝国と物言う株主━20年目の対決

旧村上ファンドがフジ・メディアホールディングスの筆頭株主に!
メディア帝国と物言う株主━20年目の対決


はじめに

フジ・メディア・ホールディングス(以下フジ・メディア)が旧村上ファンドとの対立に苦心しています。
旧村上ファンドが筆頭株主となり、株主提案をすると見られているのです。
マスメディアという超巨大企業に再編の手が及ぶという未来すらも視野に入ってきました。

村上ファンドとは村上世彰氏が率いる、元祖和製アクティビスト(物言う株主)。インサイダー取引で逮捕・起訴されて2006年に解散しました。
しかし、現在は村上世彰氏の長女である野村絢氏と共同で、休眠会社だったレノや南青山不動産、エスグラントコーポレーションなどの会社を使い、上場企業の株式を取得して活動しています。

1昭和気質が残るフジテレビを襲ったガバナンス危機


フジ・メディアの史上最大の危機となったのが、2024年末に週刊誌によって暴露された人気タレントの性加害問題の対応を巡る混乱です。

1.1外資系ファンドから経営陣の刷新を要求される

広告主の相次ぐ出稿停止やそれに伴う番組編成への影響は甚大で、2024年度にメディア事業は初の営業赤字を出す事態にまで発展しました。

これにより、投資家の経営ガバナンスに対する不信感は急上昇。社外から取締役会の刷新や外部人材の登用を求める声が強まります。
2025年6月にはアメリカの投資ファンド、ダルトン・インベストメントが経営陣の交代を求めて株主提案を行っています。

フジ・メディアは長年組織の頂点に立って重要な人事を取り仕切っていたと言われる日枝久取締役相談役を退任させるなど、自ら経営体制の正常化を図ろうとしました。
これによって株主の信任を得たものの、一連の騒動は同社の旧来型ガバナンスと説明責任の弱さを浮き彫りにし、アクティビストの主張に正当性の土台を与える結果となりました。

1.2凋落する放送事業を支える不動産の存在

フジ・メディアのバランスシート(貸借対照表)を見ると、本業以外の企業価値が少なからずあることがわかります。

お台場の本社・スタジオをはじめとする不動産群や都市開発・観光事業、コンテンツ資産など、放送事業以外にも資産リッチな構造を持っているのです。

直近の決算資料でも、資本効率の改善(ROE・ROICの向上)や政策保有株の縮減、資産見直しを掲げており、「資産は厚いが市場評価は低い」という典型的な日本型コングロマリット・ディスカウントが進んでいました。
投資家からは是正余地が大きい銘柄と映ることでしょう。

実際、同社は不動産評価の見直しで減損を計上しつつも、非中核資産の見直しや資本政策の方針を明確化し始めています。
こうした価値の棚卸しは、アクティビストからすれば介入の好機になりやすい条件なのです。

フジ・メディアのPBRは0.8倍。東証が求める1倍に達していません。
このような割安の銘柄はアクティビストに目を付けられやすいと言えます。

ガバナンス不振で会社の信頼が大きく揺らいだタイミングで隙を見せ、アクティビストに株式を握られました。

2フジ・メディア経営陣と旧村上ファンドの激しい戦い


一連の騒動が発生して以来、旧村上ファンド系(レノや野村絢氏などの共同保有者グループ)はフジ・メディア株を機動的に買い進め、7月時点で16.32%、8月末時点の報告で17.33%と着々とまで保有比率を引き上げて筆頭株主に躍り出ます。

持ち株比率により、その影響力は異なりますが、旧村上ファンド側はどこまでを目指しているのか?
そして、フジ側とのどのような攻防戦が繰り広げられるのか今後も注目していきたいと思います。

持ち株比率により、株主が保有する権利は異なりますが、主な権利を記載しておきます。

持株比率

2.1買収防衛策を発動

これに対し、フジ・メディアは7月10日に「大規模買付行為等への対応方針」を導入し、20%超の取得を目指す買付者に対して情報開示手続を求め、必要と判断すれば無償の新株予約権(いわゆるポイズンピル)を発動すると表明。
これは敵対的買収から会社を守るための買収防衛策の一つです。

報道では、旧村上ファンド側が最大33.3%までの買い増し可能性に言及した旨も示され、防衛策導入の直接的な誘因になりました。
ただし、導入発表直後は株価が反落したものの、持ち分増加が明らかになると23年ぶり高値を付けています。
市場は「防衛策=価値毀損」よりも、「アクティビストの圧力=資本効率是正期待」という見方を織り込んだと見ることができるのです。

会社側は旧村上ファンドが過去の他社案件でも段階的な買い増しを行ってきた点を例示しつつ、打ち出した方針の妥当性を補強しています。

これに対し、ファンドを運営する別の投資家は、防衛策の詳細設計や発動基準を明確化するようフジ・メディアに求める書簡を公表。
結果として、ガバナンス論争と資本政策論争が同時進行する、教科書的な日本版アクティビズムの舞台が整いました。

3旧村上ファンド系の狙いは?


では、旧村上ファンド系の最終目標は何か。
一般的にアクティビストが株式を保有して経営陣に要求する内容は共通しています。

  1. 配当・自己株買いの強化
  2. 非中核資産の売却
  3. グループ内の構造改革
  4. 監督機能の実効性向上

こうした要素を複数組み合わせ、株価を急騰させて利益を出すのです。

旧村上ファンドは2022年にベンチャーキャピタル大手のジャフコの株を取得しました。
そして、資産(野村総合研究所の株式)を売却してその資金で自社株買いを行い、増配するよう要求します。
この対立ではジャフコ側が提案を飲んでいます。

旧村上ファンドの過去の事例を鑑みると、以下3つの要求をする可能性が高いと考えられます。

3-1. 資本効率の改善

フジ・メディアは資本政策の基本方針や政策保有株の縮減を掲げていますが、市場は依然としてコングロマリット・ディスカウントを強く意識しています。
実際、PBRは1倍を下回っています。

旧村上ファンドから見れば、より速いペースでの自己株買い・配当方針の明確化、余剰資本の機動的還元、資産売却収入の株主還元への直結など、スピードと確度を伴う施策を迫れる余地が大きいでしょう。

そしてこの提案は他の株主の賛同を得やすい領域でもあります。

3-2. 取締役会の実効性と説明責任の強化

性加害対応を巡る混乱で示されたのは、危機対応力と説明責任の不足でした。
経営陣の刷新を要求する可能性もあります。

資産の売却や再配分、増配、自社株買いなどの意志決定は、取締役会が行います。旧村上ファンド側の息のかかった経営陣を送りこむことにより、コントロールしやすくなることを意味します。

つまり、不祥事を盾にして現経営陣に攻め込みつつ、意志決定をスムーズに進められる人物を経営の中枢に送り込むという目論見です。

3-3. 非中核事業または一部資産の売却

フジ・メディアは主力のメディア・コンテンツ事業の他に、都市開発・観光事業を展開しています。

2024年度のメディア事業の売上高は4043億円で、不動産事業は1409億円。
売上差は大きいものの、不動産事業の営業利益率は17%を超えています。
フジ・メディアは一連の不祥事で2024年度が赤字となりましたが、2023年度の営業利益率は4%にも届いていませんでした。

不動産事業は高値で売れる公算が高いのです。

アクティビストのダルトン・インベストメントはフジ・メディアに対して不動産事業を分離することを提案しました。
不動産経営とメディアには何の関連性もなく、放送局らしくメディア事業に経営資源を集中させ、本業で企業価値を高めるべきだと主張したのです。

つまり、不動産事業という安定した収益基盤があったからこそ、メディア事業がおろそかになって企業のガバナンス不全を招いたのではないかと主張しました。

旧村上ファンドが事業を丸ごと切り離すほど強力な一手を打ち出すかどうかはわかりませんが、保有する不動産の一部を売却するよう迫る可能性は高いと考えられます。

2025年の株主総会前には、不動産事業の分離について検討状況を公表するよう求めてもいました。

4フジVS旧村上ファンド━ 20年前の因縁とは?


記憶に残っている人も多いと思いますが、2005年2月、堀江貴文氏率いるライブドアがフジテレビの買収を仕掛けたことがありました 。
マスメディアがインターネットの新興企業に買収されかけたこの一件は、ITバブルを象徴する出来事としてよく知られています。

そして、この攻防戦には村上ファンドも参加していました。

4-1.発端:ライブドアが発見したフジテレビの弱み

フジテレビの主要株主はニッポン放送でした。
これはマスメディアの発展が大きく影響しています。

戦後の放送行政では、テレビがまだ存在せず 新聞社がまずラジオ民放免許を取得しました。
フジサンケイグループで言えば、「産経新聞(新聞)」から「ニッポン放送(ラジオ)」 、「フジテレビ(テレビ)」という順番です。

当時、テレビは実験段階で、ラジオ局の延長線上に置かれる付帯的な会社として誕生しました。
最初からテレビが巨大産業になるとは誰も予期していなかったため、子会社の方が巨大化するという想定自体が制度設計に存在しませんでした。

しかし、テレビは急速に発展して庶民の中心的な存在になります。
バブル崩壊後、巨大企業では持株会社化・非中核切り離しなどの再編機運が高まりますが、放送局は「公共性」「免許」「政治的配慮」が絡むことを懸念して、再編は進みませんでした。

フジサンケイグループもいびつな資本構成が残ります。堀江氏はここに目をつけました。

ライブドアはフジテレビの主要株主であるニッポン放送の株式を、議決権支配できる水準まで一気に買い進めたのです。

4-2.村上ファンドの登場:同床異夢のパートナー候補

ここで注目されたのが村上世彰氏率いる村上ファンドです。

村上ファンドもそれ以前からニッポン放送・フジテレビ株を取得しており、資本効率や支配構造の合理化を訴えていました。
ライブドアは放送局とコンテンツ、広告プラットフォームの獲得を目指しました。
村上ファンドが求めていたのは子会社逆転による歪んだ資本構成の是正と、資本効率の改善です。

ライブドアの買収が進めば村上ファンドの目的はかないます。
ただし、フジテレビは市場で株を買い支えるしかなくなり、最終的に高値でフジの経営陣にも売却できるというシナリオが視野にあったと言われています。

つまり、ライブドアであれ、フジの経営陣であれ、いずれも高値で売り抜けられる青写真を描いていました。

4-3.逆転劇:フジテレビに「ホワイトナイト」が 登場

しかし情勢は急速に変わり、ホワイトナイトが登場しまます。

ライブドアは差し止めの司法判断や政治的圧力、金融スキーム規制強化の三重包囲に遭いました。
結果的に、フジテレビはライブドアをグループ外へ押し戻す方向で着地します。

フジテレビはニッポン放送株の取得資金をソフトバンクグループの金融サービス会社だったソフトバンク・インベストメント(現在のSBIホールディングス)から獲得し、政策支配構造を維持することに成功しました。

村上ファンドはライブドアの幹部からニッポン放送株の大量取得の情報を得ていたとして、インサイダー取引事件に発展。
村上氏は逮捕、起訴されて有罪が確定しました。

ですから、今回のフジ・メディアと旧村上ファンドの争いは、因縁の対決であるとも言えるのです。

5中小企業も「ショック・ドクトリン」に注意


カナダのジャーナリストであるナオミ・クラインは、2007年に「ショック・ドクトリン」という書籍を出版し、世界中に翻訳されるヒット作となりました。
「ショック・ドクトリン」とは混乱に乗じて、大胆な改革を行うことを指します。

著書の中では「天安門事件」や「ソビエト連邦の崩壊」などを例に出していますが、会社の不祥事や一時的な業績の不振、創業者の突然の逝去など、混乱期に議決権を獲得し、改革を迫られることは珍しくありません。

フジ・メディアが正にそうですし、最近では船井電機もこれと近いものがあります。
こうした事例は規模の大きな会社で起こるものと思われるかもしれませんが、中小企業でもよく見られる現象です。

5-1.実は狙われやすい中小企業

上場企業の場合はフジ・メディアのように世間の目にさらされながら、買収が進行していく場合がほとんどです。
しかし、非上場の中小企業の場合は静かに進行していき、気が付いたら取り返しのつかないことになっているということもよくあります。

中小企業では経営基盤が集約されているため、以下の三つの弱点が表に出やすくなります。

  1. オーナー依存:創業者が急逝すると、誰も判断権者がいなくなる
  2. ガバナンス不在:取締役会が形骸化、議決権を誰が握るか曖昧
  3. 情報が閉鎖的:金融機関・仕入先・顧客との信用が一気に揺らぐ

この防御が崩れる瞬間に、第三者が経営再建名目で議決権を掌握することがあるのです。

5-2.中小企業の「乗っ取り」はどのようにして起こる?

会社の「乗っ取り」はどのようにして起こるのでしょうか? よくある事例を見ていきましょう。

5-2-1.株主の一部を味方につけるパターン

比較的多いのは創業者やオーナーの急逝で、後継者選びや株式の相続の混乱に乗じて第三者が入り込む余地を作り出します。
代表権や株式が遺族側で分散している場合、会社法上の意志決定が止まってしまいます。
経営を任せられる人物にも欠けていれば、事業活動に支障が出ます。

そうしたところに、「アドバイザー」「経営コンサルタント」などと称した人物を招き入れてしまうのです。一部の株主などと懇意であることが多く、多大なる信頼を得ているケースがほとんどです。
株主の信任を得て支配権を握り、会社を乗っ取るのです。

コンサルタント

5-2-2.キャッシュフローのサポートを行うパターン

資金繰りが悪化した際、「スポンサー」などと称して資金を拠出し、株式を取得するパターンもあります。

「投資助言会社」「資産運用会社」「資産アドバイザー」などの看板を掲げていることが多く、特別目的会社や投資事業有限責任組合、合同会社などを使った特殊なスキームを構築することに長けているケースもあります。

普通の人には理解できない知識を駆使し、実質的に会社を乗っ取ってしまうのです。

5-2-3.不祥事で落ち込む経営者の相談に乗るパターン

経営層や社員の不祥事に付け込むこともあります。

言葉巧みに経営者やオーナーに近づき、問題を解決するなどと提案。信頼関係を構築して心理的な壁を取り払います。
親しい関係を構築する中で、会社または経営者個人の弱みを把握します。弱みに付け込んで支配力を高めるのです。

会社法や税法などの法的知識に精通していることが多く、合法的な手段で支配権を獲得することがあります。
こうした人物はいわゆる反社会的な勢力であることもあり、注意が必要なパターンです。

まとめ


フジ・メディアは前代未聞とも言える大スキャンダルを巻き起こりました。
キー局において、これほど多くの企業がCMから手を引いた事例はかつてありません。
それほど重大なガバナンス不全に陥っていたのです。
それがアクティビストに付け入る隙を見せてしまいました。

しかしこれは決して対岸の火事ではありません。
中小企業経営者も、いつの間にか会社の支配権を握られているということもあり得るのです。

オーナーの急逝など、事業の継続や会社の承継に不安が生じた際は、然るべき専門家に相談することをおすすめします。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。