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M&A一般 2025.11.12 配信

【M&A新時代の幕開けか!?】
トランプ関税で中小企業も迫られる産業再編

はじめに


2025年の米国政権交代で動き出した「トランプ関税」。
突然の高関税は恒常的な保護主義を前提に産業構造を組み替えようという色合いが濃く、日本企業の経営戦略全体に与える影響は甚大です。
そうした中、今後最も大きく変化すると見られているのがM&A市場です。

輸出依存型の製造業は事業ポートフォリオ再編を迫られる可能性もあり、メーカーやサプライヤーを中心に中国やカナダ、メキシコ、ブラジルなどから生産拠点を移転する動きが加速しています。

この記事では、トランプ関税が日本経済に与える影響とM&Aの動向、中小企業に生じる特徴について解説します。

1.トランプ関税がもたらす再編圧力


トランプ関税が日本企業に与える本筋は、「どこで価値を生み、どこで売上を計上し、どこで税を納めるか」という地政学的なものであると言えます。
実務的かつ長期的な経営判断を突き付けているのです。

トランプ関税の最大の特徴は、「輸入品への制裁」という枠組みを超え、「アメリカが製造業の付加価値を取り戻す」という明確な政策意図があります。

単に「関税を払ってでも輸出すればよい」ではなく、「現地生産しなければ競争力そのものが成立しない」という構造が作られているのです。

それを加味すると、トランプ関税を取り巻く日本のM&A動向は次の3つの要素に集約されます。

トランプ関税の影響

1-1サ プライチェーン再配置

輸出型モデルでは採算が合わなくなるため、米国で利益を生むには米国内の製造・開発・販売機能の一体運営が不可欠になります。
結果として、アメリカのクロスボーダーM&Aや工場の取得が加速するでしょう。
大型のM&Aに限らず、部品の製造会社やシステム開発など、ミドルサイズの案件が増える可能性があります。

1-2非中核事業の切り離し

アメリカ市場向け製品を扱う日本国内の工場の稼働率は、長期的には低下が避けられません。
その際、企業は何を国内に残すかを再定義する必要があり、不採算部門や横展開が難しい事業などの売却が進むでしょう。
従って、非中核事業の切り離しが加速する可能性があるのです。

【切り離し実例】
ソニーグループは金融部門をスピンアウトさせており、2025年9月にソニーフィナンシャルグループがプライム市場に上場しました。
この切り離しは以前から計画されていたものでしたが、ソニーはトランプ関税の発動という絶妙なタイミングで金融部門の切り離しに成功しています。
ゲーム機の生産を中国で行っていたソニーは、製造拠点の非中国化を進行中。
中核事業に経営資源を集中することで、迅速な動きを取ることができるのです。

1-3アメリカ企業による日本企業買収も加速

関税回避を目的としたクロスボーダーM&A、つまり、国境を越えたM&Aが加速する可能性があります。
それは日本企業によるアメリカ企業の買収だけでなく、逆方向の買収圧力の発生も考えられます。
アメリカの会社からみれば、日本企業を買収すれば製品と技術の供給ルートを握れることになるからです。

長らく輸入に頼っていたアメリカは製造業において足腰が弱くなりました。
ノウハウや人材を獲得できる日本企業のM&Aは魅力的です。
しかも、高市政権の誕生で為替は円安に振れています。
アメリカ企業にとって、日本企業は相対的に割安に映るのです。

2.日本国内では「守るM&A」と「攻めるM&A」が二極化へ


関税が長期化する前提に立つと、日本のM&A市場では「攻め」と「守り」の二極化が急速に進むでしょう。

2-1守るM&Aとは?:事業の切り離しと構造改革

中長期的には、目まぐるしく変化する情勢に適応しづらい中堅の部品メーカーへの影響が大きいでしょう。
自動車部品メーカー各社は、トランプ関税をコストとして吸収する方針を強く打ち出しており、価格転嫁は進んでいません。
今後、収益力を回復させるため、事業譲渡や分社化、グループ内再編を検討する局面が増えると考えられます。
中堅企業のカーブアウト(※1)案件が活発化する可能性があるのです。

※1 カーブアウトとは、企業の事業の一部を切り話して独立した会社(新会社)とすること。

2-2攻めるM&Aとは?:アメリカ市場を取りに行く直接型投資

関税を回避するのであれば、アメリカに生産拠点を構築する以外の道はありません。
そうなると、日本企業はアメリカで直接バリューチェーン(※2)を設ける必要があります。

※2 バリューチェーン(価値の連鎖)とは、企業が製品やサービスを生み出して顧客に届けるまでの一連の活動を、価値を生み出す流れとして捉えた考え方です。

2025年1月から7月までの対米投資実行額は前年同期間比20%増の26兆1751億円。
海外投資全体の約半分を占めています。
同期間における日本企業によるアメリカ企業の買収額は255億ドルで、2.1倍に急拡大しました。
すでに攻めのM&Aは加速している様子。

【攻めのM&A実例】
2025年に入って日本製鉄はUSスチールの買収を成立させ、TOPPANホールディングスは包装メーカーから一部事業を取得。豊田通商は自動車のリサイクル会社を買収しています。

2-3資本政策と評価軸の変化

トランプ関税とは別の要因で、非中核事業の切り離しや持株の売却が加速するとも見られています。
東証が呼びかけるPBR1倍割れの改善です。

東証は日本の株式市場の取引を活発化させるため、PBR(※3)が1倍を下回る銘柄に対する注意喚起を行っています。

※3 PBR とは、株価が1株あたりの純資産の何倍であるかを示すもので、1倍を下回るということは、理論上は解散価値の方が高いことを意味します。

日本が世界に誇るトヨタ自動車ですらPBRは1.2倍ほどであり、改善は容易ではありません。
上場企業全体の50%程度が1倍を下回ると言われています。

ただし、海外の資金を呼び込むためにもPBRの改善は必要であり、東証も本腰を入れました。
資本効率を高めるためには、持ち合いの解消や遊休不動産の売却、非中核事業の切り離しが有効だと言われています。

トランプ関税による戦略転換、そして東証のPBR1倍割れの対策。
この2つが、日本企業のM&Aを加速させる主要因となるでしょう。

3.トランプ関税は少しずつ中小企業の体力を奪い、最終的に収益基盤が侵す静かな脅威


トランプ関税の脅威は、サプライチェーン全体の設計思想が変わってしまうことなのです。
それは、日本の中小企業にも甚大な影響を及ぼすことが考えられます。

3-1「精度の高い下請け」が一転、「コストが高い下請け」に!?

日本の製造業は、自動車などの優れた製品を生み出すため、部品メーカーが設計・加工の精度を高め続けてきたという特徴があります。

これは輸出モデルの中で育まれたと言えますが、サプライチェーンのアメリカ化が進むと、日本の中小企業はコストが高い下請けという見え方になる懸念があります。
大手メーカーが日本国内から輸入していた部品は、コストの優位性が消滅します。
従って、代替調達候補となるアメリカの現地企業の開拓が進むでしょう。

つまり、中長期的には、バリューチェーンから押し出されてしまう可能性があるのです。

中小企業が持っている優れた技術が唯一無二のものであり、代替できないものであれば問題ありません。
しかし、製品に組み込まれるような単純な部品であり、メーカーなどとは長年の信頼関係で取引が続いていたのであれば注意が必要です。

3-2 円安は表面上の延命措置

高市政権の誕生で、為替相場は円安が進行しています。
円安は短期的には増益要因になるものの、関税が構造的な障壁になっている以上、円安が競争力の後押しにはなっていません。

これは見せかけのものであり、その状況が続くと経営判断を見誤らせることになります。
変化のチャンスに鈍感になり、競争力の低下を招く懸念があるのです。

3.3価格転嫁は末端企業ほど不利

トヨタ自動車などの主要なメーカーのほとんどが、トランプ関税をコストとして吸収する意向を示しています。

従って、サプライヤーが値上げをする余地はほとんど残されていません。
これが中小企業であればなおさらです。

4.高関税時代を生き残る!中小企業の勝ち筋とは?


影響が長期化する前提に立つと、中小企業には受け身体質の延命ではなく、戦略的な対応が不可欠になります。

果たして、中小企業にこの時代を生き残る道筋が残されているのでしょうか?

中小企業の生き残る道

4-1国内事業の磨き直しと高付加価値化

価格競争ではなく、小ロットであっても高付加価値化に軸を置き、製品をニッチトップに押し上げる戦略が挙げられます。
ニッチ戦略は必ずしも代替不可能な製品を作り上げることだけではありません。
リーダー企業が追随できないチャネルの寡占化を狙う「チャネル・ニッチ」や「特殊ニーズ・ニッチ」も有効。

例えば、「チャネル・ニッチ」は、大同生命が税理士経由で保険販売した例が有名です。
「特殊ニーズ・ニッチ」は、タクシーの自動ドアに特化した技術に最適化したトーシンテックがよく知られています。

つまり、戦略的に事業展開を行う方向性を見出すことが重要なのです。

4-2 M&Aによる再編

単独でこの危機を耐え抜くのではなく、早い段階で同業や異業種の会社と組む方法があります。
M&Aで資本力のある会社のグループ入りをするのです。
中小企業オーナーの中には、売却という選択が“負け”であるかのような印象を持つ人が少なくありません。
苦境を耐え抜くかじ取りができなかったと感じてしまうのです。

中小企業は地域の雇用や取引先を支える重要なものであり、体力を失った末の廃業がもたらす影響は小さなものではありません。
グループ入りすることは攻めの経営を行えるチャンスでもあります。

5.政府がトランプ関税の緊急対応策を用意


政府は関税措置で影響を受けた企業に対するサポートを強化しています。
それを利用するのも得策です。

対策は主に5つの柱で構成されています。

5-1相談体制の整備

JETROに加え、日本政策金融公庫など全国約1000か所に相談窓口を設置しました。
資金繰り相談や雇用の維持に関するサポートなど、経営者の悩みに対して網羅的な回答が得られます。

5-2資金繰り支援の強化

金融公庫のセーフティネット貸付の要件が緩和され、売上高5%以上の減少という条件が不要になっています。
また、5月以降 の適切なタイミングで、金利引き下げの対象拡大も検討しています。

官民の金融機関に対して、債務の返済猶予や条件変更等を含めた資金繰り支援の強化も図る計画です。

5-3雇用維持と人材育成

雇用調整助成金や教育訓練給付などの要件の緩和など、迅速な支援が受けられる措置も検討中。
リスキリングを推進し、構造転換期における労働者の移動を適切にサポートします。

5-4物価高対策

足元では物価高対策に取り組んでおり、ガソリンの暫定税率の廃止がすでに決定しました。
軽油も対象に含まれる見込みで、ガソリンは1リットル当たり25.1円、軽油は17.1円あまり安くなる見込みです。

光熱費の高騰については、各自治体が事業者向けの支援を行っています。

5-5産業構造の転換

政府はすでに「ものづくり補助金」や「新事業進出補助金」で中小企業向けの新規事業立ち上げ、産業構造の転換を促していました。
今回、トランプ関税で影響を受けた会社にいついては、優先的に採択するといいます。

6.トランプ関税の影響を受けた企業がM&Aで注意すべきことは?


トランプ関税の影響は緩やかに企業の体力を奪います。

体力を奪われた企業が、M&Aで会社の譲渡を検討した場合、注意すべき点についてご説明します。

M&Aで注意すべき点

6-1 売却のタイミング

最も重要なのが売却のタイミングです。
恒常的な赤字に陥ったり、減収が続いたりしている場合は、買い手の評価額が下がってしまう恐れがあります。

仮に市場の縮小や政治的な要因で業績悪化に拍車がかかった場合、会社や経営者の力で業績改善するのは簡単ではありません。
取引の状況や発注量が大きく変化する前に動きださなければなりません。

M&Aに踏み切るタイミングであるかどうかは、以下の判断基準参考にしてみてください。

  • 早期売却が望ましいケース: 対米輸出依存度が高い、資金繰りが悪化している、競合他社との統合でシナジーが期待できる
  • 様子見が可能なケース: 関税の影響が限定的、代替市場への販路転換が進んでいる、財務基盤が安定している

M&Aは難しい決断を迫られるものですが、会社の存続や顧客との関係の維持、従業員の雇用を守ることを最優先に考えましょう。

6-2関税による業績への影響を反映した価格設定を

会社を売却する場合は、従来の企業価値評価に、関税の影響を加味する必要があります。
例えば、対米輸出の減少による受注減、原材料や輸入品のコスト上昇、賃上げ計画(将来的な計画も含めて)の見直しなど、関税による業績への影響を正確に分析する必要があります。

6-3メリットとデメリットを把握した上でベストな選択を

6-3-1 会社を売却するメリット

何といっても資本力のある会社のもとで事業活動を続けることができます。
大手グループの一員になれば、サプライチェーンから外れずに済むかもしれません。中長期的には後継者不足や資金繰りの問題も解消される可能性が高くなります。

売却後、オーナーは自由な時間を手にすることができ、個人保証も外れて一息つくことができるでしょう。

6-3-2 会社を売却するデメリット

自動車などの部品を製造する国内のメーカーであれば、開発・製造拠点がアメリカに移転する可能性があります。
国内の雇用を維持することができないかもしれません。

ただし、これはM&Aの交渉段階で相手の意向を確かめることができます。
国内の雇用の維持が譲れないポイントなのであれば、買い手の候補者にそれを伝えましょう。

 

7. 80兆円の対米投資への合意は中小企業に何かをもたらすのか?


2025年10月27日にアメリカのトランプ大統領が来日しました。
それに伴い、ラトニック米商務長官がメディアのインタビューに応えて80兆円投資の内容を語っています。

計画では、発電やパイプラインなどアメリカ国内のインフラに投資をするというものでした。
発電所の建設では、ガスタービンや変圧器、冷却システムは日本企業が供給するとの青写真を明らかにしています。

結局のところ、80兆円の巨額投資の日本の経済効果は一部の産業に限られるようです。
さらに、資金力のある大企業が米国市場へ直接投資を行う一方、資金力がない中小企業は競争激化やサプライチェーン阻害リスクに直面する可能性もあります。

つまり、中小企業への影響は限定的。トランプ関税の影響を受けた会社は、何らかの一手を打つ必要があるでしょう。

まとめ


トランプ関税は日本企業に「どこで生産し、どこで売るか」という地政学的な経営判断を迫っています。

日本企業による米国企業の買収が加速する一方、非中核事業の切り離しも進行中です。

中小企業は、精度の高い部品メーカーから「コストが高い下請け」へと立場が変わるリスクに直面しています。
生き残りには、ニッチ市場での高付加価値化や、資本力のある企業とのM&Aによる再編が有効です。政府も相談窓口の設置や資金繰り支援を強化していますが、80兆円の対米投資は大企業中心で、中小企業への恩恵は限定的。
早期の戦略的対応が不可欠です。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。