【中小企業経営者】
後継者不在、会社をどうする? ─ 4つの出口戦略
【中小企業経営者】 後継者不在、会社をどうする? ─ 4つの出口戦略
はじめに
団塊の世代が引退する時期を迎え、日本の中小企業では経営者の世代交代が大きな課題となっています。
子どもの数が減っていることや、若い世代の仕事に対する考え方が変わってきたことで、中小企業庁の調査によれば、2024年には51.1%の経営者が「会社を継いでくれる人がいない」という問題に直面しています。
そのため、やむを得ず会社をたたむ決断をする経営者が増えています。
【典型的なケース】印刷業A氏(65歳)の場合
<考えられる後継者候補の現状>
・38歳の息子は商社勤務で海外赴任中。事業承継の意思なし
・親族は負債や経営者保証を負うことに拒否感を示している
・従業員には経営能力や株式買い取り資金がない
<経営上の課題>
・設備投資のための借入金、1億円
・経営者保証あり
・定期的な設備更新が必要
<A氏の葛藤>
・廃業も視野に入れている
・従業員の年齢を考えると、失業後の再就職は困難
→なんとか会社を継続する道を模索したい
このような状況に直面している経営者が、今すぐ検討すべき4つの出口戦略とそれぞれのメリット・デメリットをご紹介します。
1. 後継者問題を先送りする3つのリスク

後継者問題を先送りにすることは、従業員への影響や企業価値の毀損と選択肢の減少、そしてその結果、充分な準備ができないまま、廃業や安価での売却を余儀なくされるケースもあります。
1-1. 従業員への深刻な影響
経営者に万が一のことがあり、後継者がいないまま突然でも廃業した場合、従業員の雇用と生活を直撃します。
<特に厳しい状況に置かれるのは>
・高齢の従業員:再就職が極めて困難
・地方企業の従業員:代替となる就職先が限られている
→ 従業員本人だけでなく、その家族の人生設計にまで深刻な影響を及ぼします。
1-2. 企業価値の毀損による選択肢の減少
後継者が不在であることで、会社の先行きが不透明であることは、特に長期契約の取引先との関係にも影響を及ぼします。
また、積極的な設備投資もしにくくなり、会社の成長にも影響が出てきます。
その場合、仮にM&Aを行っても十分な譲渡益を得ることが難しくなります。
<企業自身が直面する問題>
・将来性が不透明になるため、攻めの経営がしにくくなる。
・取引先が離れていく可能性も
・成長なき会社に対する従業員のモチベーションが下がる可能性も
1-3. 経営者自身の老後資金への打撃
<計画的に進めた場合>
・充分な準備や成長のための投資を行い、事業承継やM&Aで相応の対価を得られる
・十分な退職金を確保する準備ができる
<急な廃業の場合>
・老後資金が不十分なまま会社を畳むことに
・廃業費用がかかり、個人資産を投入する必要も
2. 後継者不在が深刻化する4つの要因
後継者問題が深刻化している背景には、社会的・経済的な要因が複雑に絡み合っています。
2-1. 少子化による後継者候補の減少
かつては当たり前だった親族内での事業承継が、難しくなっています。
<主な理由>
・子どもの数が減少している
・若い世代の価値観が多様化している
・子どもが別の道を選ぶケースが増えている
2-2. 後継者側の重い負担
事業を引き継ぐことへのハードルが高すぎるという現実があります。
<後継者候補が躊躇する理由>
・経営者保証の引き継ぎ:中小企業では経営者が個人保証を負っているケースが多い
・借入金の存在:多額の負債を背負うリスク
・業績不振:赤字企業や先行き不安な業種の承継は避けたい
・将来性への不安:事業の成長性に疑問がある
→ 親族だけでなく、従業員でさえも承継を断るケースが増えています。
2-3. 事業承継に対する認識の遅れ
多くの経営者が準備を先送りにしてしまいます。
<よくある思い込み>
・「まだ自分は元気だから大丈夫」
・「そのうち何とかなるだろう」
・「いざとなったら売ればいい」
<しかし現実は…>
・突然の体調不良で判断力が低下
・急病などで急な決断を迫られる事態に
・後継者不在のため、長期的な計画が立てられず、攻めの経営を行わなかった結果、成長が止まり、会社を売却する場合も高評価を得られず安価での売却となる
2-4. 情報不足による思い込み
「後継者がいない = 廃業しかない」と思い込んでいる。
<幅広視野を>
・小規模企業のM&Aも活発化している
・第三者への売却という選択肢も十分に検討する価値がある
・M&A業者、銀行、税理士、弁護士など、専門家に相談すれば、思わぬ解決策が見つかることも
3. 後継者不在時の4つの選択肢

後継者がいない場合の出口戦略には、大きく分けて4つの道があります。それぞれの特徴を理解し、自社に合った選択肢を検討しましょう。
3-1. 選択肢1~親族承継~
子どもや親族に株式と経営を引き継ぐ、日本で最も伝統的な方法ですが、後継者になって会社経営を任せられる人がいない場合。
<承継意欲のある継者が不在の場合の代替案>
経営は在籍中の役員や従業員に任せ、株式のみを親族が保有する方法も。
3-2 選択肢2~従業員承継~
長年会社に貢献してきた役員や従業員に経営を引き継ぐ方法。その場合、株式と経営権を譲渡する。譲渡費用が高額の場合、一人ではなく複数の従業員で株式を保有することも考えられます。
<こんな企業に向いている>
・経営能力のある従業員がいる
・事業内容や取引先を熟知している人材がいる
・承継予定の役員や従業員が株式を時価相当額で買い取ることができる資産がある
3-3. 選択肢3~M&A~
他企業や個人に会社を売却・譲渡する方法。M&Aであれば多くの場合従業員の雇用も維持され、設備資金なども確保でき、さらなる成長が期待できます。
負債や経営者保証も引き継いでもらえます。
<買い手がつきやすい企業>
・収益性と将来性がある
・独自の技術やノウハウを持っている
・親族にも役員や従業員にも株式を買い取れる者がいない
3-4. 廃業
事業を終了させて会社を清算する選択肢です。
<こんな企業に向いている>
・収益性が低く、将来性が見込めない
・他の選択肢が現実的でない
・会社を清算した場合のコストが許容範囲である
4. 出口戦略の4つの選択肢のメリットとデメリット
ここではそれぞれの選択肢について詳しく見ていきましょう。
4-1. 親族承継のメリットとデメリット
親族が会社を継がないケース。
● 4-1-1. 親族承継のメリット
━ 経営は引き継がず、株式のみを引き継ぐという選択肢
後継者不在ということは子どもや孫が会社を継がなかったケースです。
その場合、経営に携わらず、株式だけを保有して配当金を受け取る方法があります。
━ 非経営者株主のリスクは限定的
・出資額以上の返済責任は負わない
・倒産時も株式が無価値になるだけで、個人資産は守られる
━ 税制面の優遇
・一定の条件を満たせば、事業承継税制を活用できる
・株式を買い取る資金に余裕があれば有効な選択肢
● 4-1-2. 親族承継のデメリット
━ 株式買い取り資金の準備が必要
・基本的に時価での譲渡が原則
親族だからといって極端に安く譲渡すると、「低額譲渡(※1)」とみなされ、贈与税が課税されるリスクあり。目安は時価の80%以上での買取が推奨される
━最悪、倒産すれば株式は無価値
倒産した場合株式は無価値になるリスクがある。そのリスクを覚悟して買い取る必要がある。
4-2. 従業員承継のメリットとデメリット
株式も経営権も従業員に承継させる場合
● 4-2-1. 従業員承継のメリット
━ 企業文化と信頼の継続
・企業文化や技術がそのまま継続される
・従業員・取引先からの信頼が厚い
【成功事例】
ある建設会社では、創業者の息子が家業を継ぐ意思がなかったため、20年以上勤務の専務取締役に経営を引き継ぎ。専務は現場も営業も熟知し、取引先からの信頼も厚かったため、スムーズな承継が実現。
● 4-2-2. 従業員承継のデメリット
━ 株式買い取り資金の準備が必要
・企業価値が数千万円〜数億円規模の場合、従業員が個人で株式を買い取ることは現実的に困難。
・基本的に時価での譲渡が原則。安値での譲渡は税務署に「低額譲渡」を指摘され、追加の課税リスクがある。
━経営者保証の引き継ぎを嫌がるケースも多い
━経営スキルの問題
特に、経営に携わっていない従業員の場合、業務オペレーションはともかく、経営スキルがあるとは限らない。それを身に着けるため5年以上の教育が必要なケースも。
株式や不動産などの資産を親族や関係者に時価より著しく低い価格で売った場合、税務署に「みなし譲渡」と判断され、時間との差額に対して課税される可能性があります。株式を譲渡する側、譲り受ける側がそれぞれ法人か個人かにより、かかる税金の種類が異なります。(ただし、ここで注意したいのは、「関係者」とは誰までなのか、「著しく低い価格が正確にはいくらなのか」について、法律上明確な規定がないため、おおまかな情報は知りえても、実際の税務調査の場で判断されるので、事前に確実な回答を知ることができません。
4-3. M&Aのメリットとデメリット
● 4-3-1. M&Aのメリット
━ 会社の技術・ノウハウ・顧客・従業員を守れる
━ 待遇
従業員の待遇は買い手企業と同等となり、改善される可能性がある。
━ 高値での譲渡も
収益性が高い企業や独自技術を持つ企業は、予想以上の高値で売却も可能。
━ 譲渡益は、他の方法を上回る場合が多い
売り手である経営者には、主に純資産+営業利益3~5倍の譲渡益を得ることができる。
━ 負債や経営者保証
引き継いでもらえる場合が多い。
● 4-3-2. M&Aのデメリット
━見つからないリスク
買い手が見つからないリスクもある
━時間がかかる可能性
買い手が見つかるまで時間がかかる場合もある(平均的に3か月~2年)
━費用がかかる
M&A仲介業者や士業など専門家に対する報酬が発生する
━ 企業文化が変わる可能性がある。
━ 待遇
譲渡後の従業員の処遇か変わる可能性もある(契約書に明記することで回避できる)
● 4-3-3. 成功事例
製造業のM&Aの場合
ある精密部品製造会社(従業員30名、年商5億円)の事例を紹介します。
70歳の社長には後継者となる親族がおらず、従業員も高齢化していました。
M&A仲介会社に相談したところ、同業の大手メーカーが関心を示し、交渉が始まりました。
デューデリジェンスの結果、独自の研磨技術と大手自動車メーカーとの取引実績が高く評価され、企業価値は2億5,000万円と算定されました。
譲渡後も社長は技術顧問として2年間残るロックアップ条項を契約書に明記し、従業員全員の雇用継続と待遇維持が保証されました。
仲介手数料を支払い、株式譲渡益に対する税金を差し引いても、社長の手元には約1億5,000万円が残りました。
従業員も大手企業の傘下に入ったことで、給与や福利厚生が改善され、Win-Winの結果となりました。
4-4. 廃業のメリットとデメリット
● 4-4-1. 廃業のメリット
廃業の最大のメリットは、経営責任からの完全な解放と精神的な自由の獲得です。
長年にわたって背負ってきた従業員の生活や取引先との関係、借入金の返済といったプレッシャーから解放され、新たな人生のステージへ進むことができます。
タイミングを適切に選べば、事業用資産の売却益、在庫の処分益、退職金の受け取りなどにより、まとまった資金を確保できる可能性があります。
特に不動産を所有している場合、地価が高い時期に売却することで老後資金を充実させることができますが、その逆もあることに注意が必要です。
● 4-4-2. 廃業のデメリット
━従業員の雇用が失われる
従業員が高齢の場合、地方在住の場合次の職が見つかりにくい。
━廃業にかかる費用
会社の規模や業種、立地、土地の所有の有無などにもより、想定以上に高額になることも。
その他に、設備の撤去費用、在庫の処分損、事務所の原状回復費用、従業員への解雇予告手当や退職金の支払いなど、予想以上の出費が発生します。
建物を所有している場合は、原状復帰に億円単位の費用がかかることもあります。
5. 比較と判断基準
5-1. コスト・期間・影響の比較
各選択肢を多角的に比較すると、以下のような傾向が見えてきます。
● 5-1-1. コスト面
━ 親族承継
初期費用100万円〜500万円に加えて株式取得資金が必要ですが、事業承継税制を活用すれば税負担を軽減も可能です
━ 従業員承継
同様に株式取得資金が課題ですが、分割払いや融資制度の活用で解決可能です。
━ M&A
仲介手数料がかかりますが、経営者の手取りは資産規模にもよりますが数千万円〜数億円と最も大きくなります。経営者の手取りや従業員の雇用を考えると一番現実的な方法であると考えられます。
━ 廃業
は経営者の手取りは、退職金支払い、現状復帰などを行った後の残余財産のみで、マイナスになる可能性もあります。
● 5-1-2. 期間面
非経営の場合の親族承継は手続きに必要な期間だけとなりますが、教育が必要な場合従業員承継では2年〜6年M&Aが数か月〜2年、廃業が4ヶ月〜15ヶ月となります。
ですが、経営者の年齢や健康状態、事業環境の変化スピードを考慮して、現実的なスケジュールを立てることが重要です。
● 5-1-3. 雇用と取引先
廃業のみが従業員の雇用を失わせ、取引関係も終了します。
その他の3つの選択肢は雇用と取引関係の継続が期待できますが、企業文化の継承度合いは、親族承継が最も高く、M&Aが最も変化する可能性があります。
5-2. 企業規模・業種・財務状況別の比較
● 5-2-1. 企業規模別
小規模企業(従業員5名以下、年商1億円未満)は親族承継・従業員承継・廃業が現実的です。M&Aの買い手が見つかった場合でもコストの方が大きくなる可能性があります。
中小企業(6〜50名、年商1億円〜10億円)はすべての選択肢が現実的に検討可能です。
中堅企業(51名以上、年商10億円以上)はM&A・従業員承継が有力で、企業価値が高くM&Aでの高値売却が期待できます。
● 5-2-2. 業種別
設備や技術、取引先が資産となりうる業界では、従業員承継やM&Aが推奨されます。
小売業のように取引先との関係維持が成否を分ける業界では従業員承継・M&Aが推奨されます。
サービス業は経営者個人のスキルに依存するため、M&A・廃業が選択されやすい傾向にあります
● 5-2-3 財務状況別
・安定黒字企業
すべての選択肢が可能で、企業価値を最大化してからの承継を検討できます。
・赤字だが資産超過の企業
収益改善の見通しを示せればM&Aの可能性があります。
・債務超過企業
M&Aや承継が極めて困難なため、早期の事業再生または計画的廃業を視野にいれるべきです。借入過多の企業は、経営者保証の解除が課題となるため、金融機関との事前交渉が必須です。
6. 専門家に相談すべきタイミングと活用方法

事業承継は経営者人生の中でも最も重要な意思決定の一つです。
適切なタイミングで専門家に相談することで、より良い選択肢を見つけられる可能性が高まります。
専門家への相談は、後継者問題を意識し始めた時点が最適です。
具体的には:
・経営者が60歳に達したとき
・親族や従業員から後継者候補が現れたとき
・同業他社からM&Aの打診があったとき
・健康上の問題が生じたとき
・業績が悪化し始めたとき
・主要取引先や金融機関から後継者について質問されたとき
などです。
相談先としては:
・M&A仲介会社 ━ 買い手探索、企業価値評価、交渉支援、契約締結サポートを行います。
・全国の事業承継・引継ぎ支援センター━無料相談を受け付けています。
・税理士 ━ 企業価値算定や税負担シミュレーション、事業承継税制の適用について専門的な助言を提供します。
・弁護士 ━ 契約書作成や株主間の権利調整、労働問題対応など法務面をサポートします。
・金融機関 ━ 財務状況から見た承継の可能性の相談に乗ってくれます。
重要なのは、一人で悩まず、早期に専門家の知見を活用することです。事業承継は経営者にとって初めての経験であり、専門的な知識や豊富な経験がなければ最適な判断を下すことは困難です。
適切なタイミングで適切な専門家に相談することが、会社と従業員、取引先の未来を守ることにつながります。
7. まとめ
日本の中小企業経営者の6割が引退時期を迎えている今、後継者不在という深刻な問題が発生しています。
問題を先送りすると、従業員の雇用喪失、取引先への連鎖的影響、経営者自身の老後資金不足というリスクが生じます。
解決策として4つの選択肢を提示:
①親族承継(株式のみの継承も可能)
②従業員承継(企業文化の継続に有利)
③M&A(従業員雇用維持と高額譲渡益が期待できる)
④廃業(最終手段)。
特にM&Aは、一般的には、純資産+営業利益3〜5倍の譲渡益を得られ、従業員の雇用も守れるため、最も現実的な選択肢とされています。
企業規模や財務状況により最適な方法は異なるため、後継者を意識し始めたら、専門家へ相談することが重要です。
どの選択肢を選ぶにしても、早期の決断と準備が成功の鍵となります。
事業承継には通常3年から5年、場合によっては10年程度の時間が必要です。
後継者不在の問題を先送りにせず、できるだけ早い段階で専門家に相談し、企業の状況に合わせて最適な選択肢を見極めましょう。
国や自治体による支援制度も充実してきており、事業承継税制や補助金制度を活用することで、経済的な負担を軽減できます。
従業員や取引先、地域経済への影響も考慮しながら、計画的に事業承継を進めることで、経営者の想いと築き上げた事業を次世代につなぐことができます。
執筆者 経営支援・WEBコンサル・WEBコンテンツライター 白河 真琴
中小企業の経営のサポートの経験を活かしながらコンテンツライターとして活動中。
自身の会社のM&Aの経験から企業法務やM&A関連の執筆を中心に行っています。
業界特化のM&A 「エム アンド エー オール」