カリスマ経営者は"諸刃の剣"~ニデック問題に学ぶ事業承継の重要性~
はじめに
ニデックは2025年12月19日に創業者である永守重信氏が、代表取締役グローバルグループ代表が取締役を辞任、非常勤名誉会長に就いたことを発表。
不適切会計の疑いで10月に「日本取引所」より特別注意銘柄に指定されています。
資産の評価額を自分たちの都合のいいように調整していたり、組織的に利益操作をしていたりすることを示す資料が、社内から次々と発見されるという不適切会計問題で揺れているのです。
ニデックは、永守重信氏が創業、一代で売上2兆6000億円規模まで育てた会社。
約50年にも渡り代表取締役を務めたカリスマ経営者であった永守氏が築いた企業風土がやがて大問題へと発展します。
1.カリスマ経営者が作り上げた企業風土

永守氏は1973年に後にニデックとなる日本電産を立ち上げました。創業者である永守氏と社員3名、小さなプレハブ小屋で、精密小型モータの製造・販売を開始します。
1974年にアメリカ、1975年にアジア、ヨーロッパにも代理店を設けるなど、早くから世界展開を視野に入れていました。
「世界一になる」という永守氏の強い覚悟をうかがい知ることができます。
1-1.M&Aで圧倒的成功を収める
1998年に株式を上場したころから、 戦略的にM&Aを押し進めてきました。
ニデックはM&A巧者として有名なことでもわかるように、業績が停滞した中小企業を買収しては、従業員の意識改革を実施し会社を大きくしてきたのです。
まずは、徹底したコスト削減を図るべく、ネジ一本の伝票に至るまでチェックするよう、永守氏はPMI担当者に指示したと言われています。
PMIとはPost Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)」のことで、M&A後の統合プロセスを指します。
シナジー効果を最大化するため、企業文化のすり合わせや仕入先の統合、社員のモチベーションアップなどを図って、業績を高める取り組みです。
PMIはM&Aで最も重要なポイントの一つでもあるとされており、ニデックでも永守氏の監督のもとで、細部にわたりPMIを着実に遂行していました。
積極的なM&A戦略がニデックという会社の成長を支えていた一方で 、大きな成長戦略だけではなく、子会社の細部にまで永守イズムを浸透させていました。
永守氏に誰も逆らうことができない、強大な支配力が広がっていったと言い換えられるでしょう。
1-2.後継者の最有力候補と呼ばれた関潤氏との決別
ニデックは2015年3月期に売上高1兆円、2023年3月期に2兆円を突破しました。
16期連続の増収を成し遂げます。
永守氏は10年以上前から後継者選びを進めていました。
2013年にカルソニックカンセイ(後のマレリホールディングス)の元社長・呉文精氏を招へいするも2年で退社。
2018年に副社長だった吉本浩之氏を社長に引き上げてトップ交代を行いました。
しかし、2021年に退社しています。
そして、2021年に日産自動車の幹部だった関潤氏を招へいし、同年CEOに昇格。ところが2022年に退社してしまいます。
日産では人格者だと部下から慕われていた関氏の短期間での退任は、世間を驚かせました。
永守氏と関氏には決定的な確執があったと言われています。
永守イズムを継承する器ではないと判断されたのでしょう。
1-3. 「できない」とは言えないニデックの企業風土
ニデックには「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」という永守イズムを象徴する言葉がありました。
これは社訓とも言えるものであり、永守氏のカリスマ性も相まって、「できない」と言えない風土が形成されてしまいます。
不正会計の疑いを受けたニデックの岸田光哉社長は、2025年11月14日の会見で「短期的な収益を重視しすぎる傾向がある」ことを認めました。
そのうえで、「ニデックには『すぐやる、必ずやる、出来るまでやる』という精神があるが、そこに加えて『必ず正しくやる』という新たな風土、企業倫理を付加していくことが重要」などと話していました。
東洋経済は、「ニデック本社とグループ会社の間で取引の時期をずらして売上計上する手法が使われており、無理やり数字を作ることが常態化していた」と報じています。
また、機械の減価償却期間を延ばす、建設仮勘定を使って労務費や研究開発費を資産計上する手法もとられていたようです。
永守氏をトップとする上層部に「できない」とは言えないため、現場社員たちはやむなく不適切な手口で数字を作っていたのです。
その末路として、名門企業ニデックは、一連の問題で東京証券取引所から「特別注意銘柄」に指定されました。
1年以内に改善がなされない場合、上場廃止の可能性さえ出てしまいます。
2.オーナー企業であるがゆえの弊害
実はニデックのようなオーナー企業がガバナンス不全に陥ったり、急逝して混乱を招いたりするケースは少なくありません。
いくつか例を紹介します。
2-1.取締役会の承認なくレストランを譲受した元オーナーシェフ
高級レストラン「ひらまつ」は、フランスで修業を積んだ創業者・平松博利氏のカリスマ性で店舗を拡大し、高級レストラン業態で初の上場企業となりました。
2016年に平松氏が退任し、代表権のない会長に就任します。
しかし、平松氏は退任した年に「ひらまつ総合研究所」という会社を創業。
後にこの会社がひらまつの取締役会の承認なく一部の店舗を譲受し、業務委託報酬名目で資金を吸い上げていた実態が明らかになりました。
つまり、トップ交代はしたものの、当時のひらまつの社長・副社長は平松氏に逆らうことができず、ひらまつ総合研究所の都合のいい契約を結んでいたことが明らかになったのです。
ひらまつ総合研究所はひらまつに対して業務委託報酬などが支払われていないと提訴しましたが、2021年に和解が成立しています。
2-2.創業者の急逝で勃発したお家騒動
定食の「大戸屋ごはん処」を運営する大戸屋ホールディングスは、2017年7月に創業者の三森久実氏が逝去。これをきっかけにお家騒動に発展しました。
三森久実氏は2012年に窪田健一氏に社長の座を譲り渡したものの、いつかは息子の智仁氏を社長にしたいという意思を持っていたようです。
しかし、智仁氏は2013年に大戸屋に入社したばかり。十分な実績はありませんでした。
2015年に久実氏が逝去すると、保有していた19%あまりの株式は妻と智仁氏が相続します。
それ以降、創業家と経営陣の対立が表面化しました。
最終的に創業家は相続税対策や、状況が不透明な会社の株を保有することに不安を感じ、持株を外食大手コロワイドに譲渡。これを皮切りに、コロワイド側の敵対的TOBに発展し、成功。
お家騒動は終結を迎えます。コロワイドの登場で別の形に変化していきました。
三森久実氏は56歳という若さでこの世を去っています。
しかし、事業の後継者を遺言書で指定しておけば、相続税問題も、経営状況不透明問題も回避できていた可能性があります。それでも結果的に現在の業績を考えるとコロワイドのTOBが成功の一因だったと言わざるを得ません。
2-3.株主総会への来場を拒否した独裁者
無線通信機器メーカーのユニデンホールディングスは、1966年から2020年まで、創業者である藤本秀朗氏の独裁体制が続いていました。
何人もの役員を交代させてきましたが、2012年ごろからは後継者選びを進めていました。
ところがその後継者も、わずかな期間で退任に至ってしまいます。
2019年にはアマゾンの事業本部長を務めた木場和人が社長に就任。しかし後継者不在のまま3ヶ月で辞任しました。
後継者不在のまま会社を去るという異例の事態に見舞われたのです。
ユニデンは2020年にはアメリカの子会社で不正会計が発覚したことにより、。藤本氏は取締役を退任しました。
後継として、専務の西川氏が社長に就任したものの、藤本氏は傀儡体制(かいらいたいせい)、つまり取締役を退任してもなお、会社を自身の影響下に置く体制を構築しようと画策。
しかし、西川氏はそれに徹底抗戦の構えを見せます。
激怒した藤本氏は、株主総会で西川社長選任に反対するよう株主に呼びかけを行いました。
開催した株主総会は、「新型コロナウイルスから生命と健康を守るため」として、役員以外の株主の来場を拒否。
中継も行われないという、異例の事態となりました。
しかし、それでも結果として株主総会では会社提案の人事案が可決されています。
会社のオーナーが人事権に介入し、経営に混乱をもたらす典型的なパターンでした。
3.後継者選びには長い年月をかけるサイバーエージェント

一方で、華麗とも言えるほどスマートに後継者選びを進めた会社があります。
サイバーエージェントです。
カリスマ社長の藤田晋氏の世代交代は入念に準備されたものであり、持続可能な組織にしようという固い信念に貫かれています。
この社長交代劇は中小企業でも参考になる部分が多く、ここで簡単に紹介します。
3-1.100項目に及ぶ思考プロセスを言語化
サイバーエージェントが後継者の育成に本腰を入れたのは2022年の春でした。
社長候補を発表したのが2025年11月。3年半にも及ぶ大がかりなプロジェクトだったのです。
社長業を引き継ぐにあたって藤田氏が着手したのは、経験や勘で判断していたことを言語化し、引き継ぎ書としてまとめることでした。
創業社長は稟議や社内での十分な説明が必要なく、スピーディーに経営判断が下せます。
これは事業推進を迅速に行える一方で、知見や経験という経営に欠かせない要素がオーナーに集中してしまうという弊害があります。
藤田氏は経営判断の基準やロジック、思考の根拠など、100項目以上の言語化を行ったといいます。
具体的には、以下のような内容です
「中長期の利益と短期の数字をどうバランスさせるか」
「なぜこの場面では撤退を選び、あの場面では投資を選んだのか」
「トータルで辻褄を合わせるために、どのような思考回路で意思決定を行ったか」
思考プロセスそのものを言葉にして伝えました。
研修では2~3ヶ月に一度、候補者を集めて引き継ぎ書をもとに議論を重ねたといいます。
3-2. リクルートの事業承継特別プログラムの研修も
後継者候補は、リクルートが提供するCE研修も受けていました。
自己発見や探求プログラムで自己分析を行い、その後は社長の意志決定を追体験するというものです。
客観的に自己分析してゆくため、自分の強みと弱みを把握できます。
チームに相応しいメンバーは誰なのか、何を補完してもらうべきなのか、課題に対してとるべきアプローチは何なのかが見えてきます。
オーナー社長は感覚的にわかっているものですが、社員はそうではありません。
こうした研修を通して、社長業を追体験するのです。
3-3.社長交代後も4年間は引継ぎ期間に設定
藤田氏は引き継ぎ困難なものが3つあると語っています。
① サイバーエージェントで働く人やカルチャー、強みをもとに事業構想する力
② 事業市場や社員、取引先などに対する洞察力
③ 社長としての求心力
これらは一朝一夕で養えるものではなく、日々の案件に対する意志決定を確認しつつ引き継げるよう伴奏すると宣言しました。
2025年はトップ交代を果たしましたが、完全な引継ぎにはロードマップがあります。
2027年に新社長が独自の中長期ビジョンを発表。2029年に社長業の8割の引き継ぎを完了するというものです。
長い年月をかけて、計画的に事業承継を進めるのです。
【参考資料】
社長交代を重ねても持続的に成長する会社になるために
創業社長から2代目への社長交代
https://www.cyberagent.co.jp/way/list/detail/id=32700
退任するサイバー藤田晋社長、続ければ「イエスマンばかり育ってしまう」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC160SC0W5A111C2000000/
引き際が美しい創業経営者は少ない…サイバー藤田晋氏が語る「42歳の叩き上げ社員」を2代目に抜擢したワケ
https://president.jp/articles/-/105798
藤田社長が「向こう20年、価値ある研修だった」と語った「コミュニケーションエンジニアリング研修」とは何か?
https://www.recruit-ms.co.jp/issue/column/0000001321/
4.中小企業も事業承継が深刻な問題に
中小企業経営者の高齢化が進んでおり、事業承継は社会問題化しつつあります。
社員に引き継ぎたい。しかし、その道は簡単ではありません。
その理由を説明します。
4-1.経営能力があるのか
サイバーエージェントの新社長は、2009年にスマートフォン広告を手がける子会社CyberZの社長を務めており、2023年にはABEMAのCOOに就任していました。
そして、藤田氏は子会社の経営は基本的に部下に任せるタイプであり、その代わりに責任を取らせるという経営スタイルをとっています。
従って、部下たちの基本的な経営能力や素地は整っていたのです。
中小企業の場合、意志決定はオーナーに依存しているケースが大半。
右腕として活躍してきた人物だからといって、従業員を統率したり、市場動向を読んだりする能力が備わっているとは限りません。
4-2.株式を譲受するに足る資金を用意できるか
堅調に事業推進してきた会社であれば、純資産が1億円程度あるケースも少なくありません。
利益を出している会社であれば、評価額が2億円を超えることもあります。
特に病院のような組織は純資産が膨らんでいることが多く、資金を用意することが困難です。
4-3.債務保証をする覚悟があるか
会社の借入金はほとんどの場合、オーナーの債務保証が必要です。
長年、従業員という立場で働いてきた人にとって、数千万円、数億円という借入金は莫大なものに見えてしまいます。
保証人の切り替えに不安を覚え、難色を示す人が少なくありません。
また、家族が嫌がることも多く、事業承継が進まない要因になっています。
5.事業承継問題を解決するM&A
M&Aによる事業承継は、社外から経営に相応しい人物を探して引き継いでもらう方法です。
資本力のある会社の傘下に入り、グループの有能な人物が経営のかじ取りを行うため、安心して任せられます。
顧客と取引先との関係や、従業員の雇用を守ることができ、会社を持続可能な状態に置くことができます。
売却したオーナーは譲渡益を手にすることができ、債務保証も外れるため、第二の人生を楽しむことができます。
M&Aを行った元オーナーは、趣味や家族の時間などプライベートを充実させるタイプや、飲食店経営といった新たな事業を立ち上げるタイプなど、様々な道を切り開いています。
まとめ
名門企業ニデックの不適切会計は、事業承継ができないことのリスクを、まざまざと世間に見せつけました。
カリスマ経営者の負の側面が噴出してしまった結果と言えるでしょうのです。
創業オーナーの独裁体制が続けば続くほど、ガバナンスリスクは高まります。
悪しき慣行を止められる人がいなくなってしまうのです。
持続可能な経営を続けるためにも、然るべきタイミングで次の世代へと引き継ぐことが、経営者としての最後の責任だと言えるでしょう。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。
業界特化のM&A 「エム アンド エー オール」