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M&A一般 2026.1.9 配信

その条件、本当に安全? ~「吸血型M&A」で失敗しないための回避術~

はじめに


中小企業のM&Aは、事業承継問題を抱えるオーナーにとって一般的なものとなりました。
国もM&A支援機関登録制度を設け、円滑な事業承継を後押ししています。

しかし、近年は中小企業同士のM&Aにおけるトラブルや紛争が増えつつあります。
M&A仲介会社「M&A DX」の登録抹消、「ルシアンホールディングス」が引き起こした買収トラブルなど、社会的関心も高まっています。

本記事では、中小企業オーナーが知っておくべきトラブルの構造や、仲介会社との契約、やり取りで注意すべきポイントをまとめました。

1.日本国内で起こった主なM&Aのトラブル


 

吸血型M&A

中小企業のM&Aのトラブルの中に「吸血型M&A」と呼ばれている悪質な手法があります。

それは、資金繰りが乏しい、または赤字の会社が狙われやすく、早く売却の決断をした方がいいなどとオーナーの心理につけこんでプレッシャーをかけてきます。

M&Aが成立すると、買収会社は取得した会社の現金を引き出し、法人のクレジットカードなどを使って徹底的に会社から現金を移動させます。
売り手経営者などの連帯保証の解除をすることが契約に盛り込まれているものの、そのままにして連絡を絶つケースが大半です。
つまり、買収会社の資産だけを狙って、負債は元経営者に押し付け、会社を倒産に追い込んで逃げてしまうという手法です。

具体的に見ていきましょう。

1-1.事例①:法人クレジットカードがキャバクラに…

東海地方の介護事業者のオーナーは、経営を第三者に任せて自らは現場に立ちたいとM&Aを決めました。
しかし、買収された直後に1千万円超の現金を引き抜かれ、法人のクレジットカードがキャバクラなどに使われたといいます。

買収した会社はこの介護事業者の介護報酬を受け取る権利をファクタリング取引で売却。一定額を吸い上げていた実態も明らかになりました。

さらに、借入金の連帯保証を解除することが契約書に明記されていましたが、解除されないままに一年近くが経過。現金の引き出しやクレジットカードの支払いなどが発覚しました。

このM&Aを仲介した、M&ADXは2025年1月に国の登録制度「M&A支援機関」の登録を取り消されました。
制度開始後初の処分でした。

ただし、欠格期間は8カ月で、2025年7月に東証スタンダード市場の上場会社fonfunと資本提携し、社長を交代するなど経営体制を一新し、事業活動を再開しています。

1-2.事例②:連帯保証が解除されないまま資金難で倒産

早期リタイアをするべく、自らの自動車部品会社を茨城県の投資会社・ルシアンホールディングスに売却したオーナーは、買い手の経営者が魅力的で丁寧な人だと感じたといいます。

譲渡契約書には連帯保証(経営者保証)の解除を行うことが条件だったものの、変更する前に買い手側から「予定していた代表が就任できない。新たな人物を探すのに時間がかかっている」と告げられたといいます。
つまり、新たな連帯保証人の相手が不在だっただめ、名義変更できないということになります。

結局、連帯保証の変更が行われる前に借入金3000万円が返済期限を迎えました。
元オーナーは保証が解除されていないため、金融機関との交渉を行いました。
そこで、10人以上いた従業員が半分以下になり、商品を仕入れる資金も残っていないという実態を把握するに至りました。

買い手側の経営者とは音信不通になり、事務所は家賃滞納で差し押さえられる結果に。
資金難で倒産へと至りました。

1-3.事例③:M&A仲介会社は非上場に

ルシアンホールディングスは、同様の手口で中小企業オーナーを手玉に取っていました。

研究機関で使う分析機器の製造販売をしていた会社は、債務が3億円に膨らんだうえ、社員が引き抜かれたことなどを受けて会社を売却する決意を固めました。

ペアキャピタルというM&A仲介会社を知り、相談すると、ルシアンホールディングスを紹介されたといいます。

しかし、買収成立直後に会社の資金が引き出され、わずか1年半で倒産しました。

このM&Aを仲介したペアキャピタルは東京プロマーケットに上場していた会社でしたが、2024年8月に上場廃止となりました。
その後、システム開発などを行うヒューマンクリエイションホールディングスが完全子会社化しています。

2.全株を譲渡した場合は法的責任を追及しづらい


M&Aのトラブルに巻き込まれた人の多くは、買収相手を提訴しています。
しかし、全株を譲渡した場合、法的責任を追及するのは簡単ではありません。
経営責任が移転しているからです。

2-1.経営責任が移転しているという意味

仮に会社のオーナーが第三者に経営を任せる委任契約をしたとします。
この場合、任された人間は他人の財産を管理しなければなりません。
もし、財産に損害を与えれば背任罪に問うことができます。

しかし、M&A後の買収先のオーナー経営者は話が別。
資金の移動はどの会社も行うことであり、よほど悪質なものでもない限り、買収企業から別の場所に移動したからといってその行為を違法だと指摘することは困難です。

2-2. 連帯保証(経営者保証)の解除を契約書に盛り込んでも…

M&Aでは、経営者保証を解除することを契約書に盛り込むケースが大半。
しかし、ここにも落とし穴があります。

確かに株式譲渡契約書には経営者保証を解除するよう明記されています。
ところがそれは、ほとんどの場合が努力義務なのです。

経営者保証

経営者保証を切り替えるのは資金の借入先の審査によって判断されるものであり、買い手が保障保証を解除して、別の人に引き継ぐことをと断言することはができません。

「努力義務」は法的拘束力が弱く、責任追及に限界があるのです。

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経営者保証を強いられるのは銀行の借り入れだけとは限りません。例えばファイナンスリース(7年契約で、もし、中途で解約した場合は残りの全額の支払い義務があります。その支払い義務の連帯保証人を立てられるケースがあります。
あるいは、例えば、土地を借りて建物を建てている場合、会社の倒産や閉鎖などの場合、自社で資金をだして、その土地を現状復帰させなければなりません。その連帯保証を経営者に強いられる場合があります。もし、会社にお金がない場合は、経営者が自己資金で建物を壊して土地を現状復帰させる必要があります。
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以上のようなことから、売り手側は信頼のおけるM&A仲介会社を選び、十分に調査を行ったうえで買い手を選択しなければなりません。

M&Aで何より重要なのは信用なのです。

3.M&A支援機関登録制度とは?


国はこうした問題に対応するため、2021年より「M&A支援機関登録制度」を開始しました。中小企業がM&Aを行う際に、信頼できる支援機関を選べるようにすることが目的です。

この制度に登録するには、次のような要件が求められます。

3-1.中小M&Aガイドラインの遵守

登録する事業者は、中小M&Aガイドラインの行動指針に沿った業務推進を行わなければなりません。
中小M&Aガイドラインは中小企業庁が定めているもので、仲介手数料の適正化、不利益情報の開示の徹底、リスクを最小化する措置を講じること、など適正な業務遂行の指針を示したものです。

ただし、制度は業界の質を底上げする効果がありますが、登録しているからといってすべての仲介会社が優良とは限りません。
2025年に登録取り消しの処分が下された仲介会社が出たことがそれを示しています。
「登録=安全」ではなく、「基準を満たしている」に過ぎない点は理解しておく必要があります。

3-2.ガイドラインの遵守と現場でのすり合わせが重要

一方、中小企業庁が掲げているM&Aガイドラインは、経営者個人保証の付け替えをM&Aの交渉中に実施することを求めるなど、実際の現場には合わないものも少なくありません。

ガイドラインを参考にしつつ、契約書に重説を入れるなどの工夫を凝らしている事業者もあります。

M&A仲介会社を選ぶ際は、ファーストコンタクトや初回相談時にどのような方針をとっているのか確認すると良いでしょう。

そして、信頼できる会社であるか、実績はあるか、ネットワークは十分か、などのヒアリングを行って最終的な依頼をしてください。

複数の会社に依頼して同時並行でM&Aを進める人も見かけますが、あまりおすすめできるやり方ではありません。
目移りしてなかなか決断できないこと、プロジェクトを進めるコンサルタントのモチベーションが下がってしまうこと、売却額にのみ関心が集中してしまうことなどが理由に挙げられます。
経営を任せられる信頼のおける買い手を見つけづらくなってしまうのです。

3-3.悪質な仲介会社を見抜く方法

以下のようなポイントをチェックすると、トラブルの芽を早期に見抜きやすくなります。

 手数料が複数項目に細分化されすぎていてわかりづらい
 面談の段階から「売れます」「買い手はたくさんいます」と過度に楽観的な説明をする
 「後がないから早く売った方がいい」などと早期売却を迫る
 契約書の説明が不十分で、質問に答えたがらない
 財務情報の開示を渋る買い手を無理に推してくる
 明らかに経験の浅い担当者がひとりで案件を回している
 担当者の売り手企業が属する業界に対する解像度が低い

仲介会社によっては、プロジェクトを開始するにあたって着手金を支払うことがあります。
そのため、「気が進まない」と感じても、途中で手を引くことにためらいを感じることもあります。
しかし、サンクコストと考えてプロジェクトを中断し、別の仲介会社を探すのが最善手である可能性もあります。

「おかしい」と思ったら、別の会社に相談しましょう。

4.M&Aのよくあるトラブル


中小企業のM&Aでは、売り手・買い手・仲介会社の三者間で様々なトラブルが発生します。
代表的なものを紹介します。

4-1.譲受(買い手)企業とのトラブル

■M&A実施後に買い手側が破産
買い手企業が過大な資金を借り入れている場合、買収後まもなく資金ショートを起こすケースがあります。
売り手側は法的責任を負わなくても、従業員や地域からの非難を浴びることがあります。

■譲渡後に経営陣を入れ替えて高額な役員報酬を設定
非上場かつオーナー企業である中小企業の経営の自由度の高さを逆手にとり、高額な役員報酬を設定するパターンです。
会社の利益に見合わない役員報酬は、経営の持続性を損ねます。
買い手企業のガバナンスチェックを怠った結果、経営の私物化が起こる悪質なM&Aの一つです。

■新役員が個人保証の切り替えを拒否
中小企業では融資にオーナーの個人保証がついていることが多く、買収後に新オーナーへ保証人変更を求めても拒否、または引き延ばされるケースがあります。
これは譲渡契約書に保証の扱いを明記していないことや、努力義務に留まっていることが原因です。

個人保証が残ったまま買い手側が連絡を絶つと、最終的な返済義務は売り手側にあるため、金融機関との交渉を行わなければなりません。

■従業員への給与未払いを継続
買い手が資金不足のまま買収したり、キャッシュ管理の能力が低かったりすると起こりやすい事象です。
悪質な場合は、会社の資金を抜いて計画的に支払いを滞らせます。
労務トラブルに発展すれば、元オーナーの評判にも影響します。

■会社の運転資金として従業員から金銭を借りて返金しない
極めて悪質なケースで、経営者としての適正が欠如していると言わざるを得ません。
買い手の評判、人物像の調査を軽視すると起こりやすい問題です。

4-2.仲介事業者とのトラブル

■高額な仲介手数料の請求
複数項目に分かれた手数料体系や、成約後の追加請求は典型的なトラブルです。
仲介会社が料金体系を十分に説明していなかったことや、売り手がよく理解していなかったこと、M&Aの条件に売り手が満足していなかった場合に起こりやすいトラブルです。

■音信不通の状態で月額報酬を要求
小規模仲介に多いケースで、連絡が取れなくなったのに成功報酬や月額報酬だけは請求してくることがあります。

■悪徳な譲受企業を候補として紹介
買い手候補の財務状況や人物面を十分に確認せず、成約目的だけで無理に紹介してくるケースです。

売り手側の借入額が大きい、事業の伸びしろが少ない、あまりにニッチな産業である、債務超過であるなど、条件が悪く買い手候補が見つかりづらいため、早く売却して手数料を得たいという仲介会社側の心理が背景にあります。

5.トラブルを回避するためには?


中小企業オーナーがM&Aで失敗しないためには、次のポイントを押さえることが重要です。

5-1.複数の仲介会社と面談し、比較検討する

1社だけの意見を信じるのは危険です。
料金体系、担当者の力量、相性、企業ネットワークを必ず比較してください。

5-2.買い手企業の財務・人物を徹底的に調査する

財務DD(デューデリジェンス)はもちろん、人物面の評価も欠かせません。
「誠実さ」「社会性」「従業員の扱い方」は必ず確認すべきポイントです。

買い手側の過去のM&Aの実績や、統合後に経営がうまくいっているか、従業員との関係はどうかなども確認してください。
ルシアンホールディングスは複数の会社が被害に遭いました。
少なくとも、吸血型M&Aを重ねる中で、水面下で悪評はあったはず。
こうした情報をつかむ努力をしましょう。

そして何より、焦って売却先を選ぶことだけは避けましょう。

5-3.契約書は専門家へチェックしてもらう

弁護士やM&Aに詳しい専門家のレビューは不可欠です。
特に経営者保証などに関する条項は慎重に確認してください。

5-4.譲渡後の従業員ケアを重視する

円滑な事業承継には従業員の理解が欠かせません。
買い手企業がどのように従業員を扱うかを事前に確認することが重要です。

また、売却後はアドバイザーなどとして、売り手が一定期間会社に残ることがありますが、買い手側がおかしな動きをしていないかチェックしましょう。
M&Aが成立したからと安心しきるのは厳禁です。

5-5.「違和感」を無視しない

M&Aトラブルの多くは、初期段階の違和感を放置した結果です。
「何かおかしいな」と感じたら、立ち止まる勇気が必要です。

仲介会社のコンサルタントは頼れるパートナーです。
心配になったら相談をしてください。
もし、まともに相談に乗らない担当者であれば、すぐにプロジェクトを打ち切る方が良いでしょう。

まとめ


 

中小企業M&A

中小企業のM&Aは、オーナーにとって人生最大の意思決定となることが少なくありません。
しかし、情報格差が大きい市場だからこそ、トラブルの種はいたるところに潜んでいます。
本記事で紹介したような事例や問題点を知っておくことで、無用なトラブルや後悔を避け、安全にM&Aを進める可能性が大きくなります。

M&Aは本来、売り手・買い手・従業員のすべてを幸せにできる制度です。適切なパートナー選びと準備を行い、後悔のない事業承継を実現してください。

そして、仲介業者は信頼と実績の有無をしっかり調べてお願いすることが何よりも重要です。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。