高市政権の積極財政が中小企業にもたらす変化
~業界の明暗は?~
はじめに
2025年10月21日に高市内閣が発足しました。
これまでの政権を振り返ると、第2次安倍内閣による積極財政が続いていたところに、コロナ禍で菅内閣が大幅な歳出の拡大を行いました。
それを正そうと岸田内閣が財政規律路線を辿り、石破内閣はその流れを踏襲しました。
しかし、2023年ごろからインフレが加速。高市内閣は財政拡張の姿勢を見せています。
積極財政で国債残高が積み上がる懸念がある一方、日本経済が上向くことへの期待感が高まりました。
新内閣発足後に日経平均株価は史上初の5万円を突破。
中小企業への影響も大きそう。
政権の方針や高市氏の言動により、どのような業界が活性化されるのか。
注目の業界、産業をひも解いてみましょう。
1. 政権が経済対策に掲げる17項目の重点分野とは?
11月4日に「日本成長戦略本部」の発足を宣言。
経済・産業の活性化と危機管理の観点から官民を挙げた重点投資分野として17の戦略分野を公開しました。
政府が集中投資をすると宣言したに等しく、最も注目すべき領域でしょう。
1-1. 17の重点分野と投資の本丸は?
ここでは17の戦略分野の概要を紹介します。
中小企業としていかなる関わり方ができるのか、という観点でも補足をします。
① AI・半導体
【概要】
AIの信頼性評価基準を構築し、日本文化に根差した信頼できるAIの運用・開発基盤を整備
【中小企業の関わり方・方向性】
・AIを活用したサービスの開発促進(チャットボット、ルーティン業務の自動化システムなど)
・半導体サプライチェーンの資金調達環境の改善
② 造船
【概要】
生産能力拡大のための大規模投資を支援
【中小企業の関わり方・方向性】
・造船産業の活性化
③ 量子
【概要】
量子コンピューターの開発支援
【中小企業の関わり方・方向性】
・工場や物流施設などの効率化に向けた実証実験パートナーとしてのプロジェクト参画
・システム開発、データ利用機会の創出
④ 合成生物学・バイオ
【概要】
医薬品・ワクチン開発に留まらず、エネルギーや食料など生命科学を軸にした産業基盤を構築
【中小企業の関わり方・方向性】
・医療機器、検査機器産業の活性化
・バイオ素材、バイオプラスチックなどの新素材開発の促進
⑤ 航空・宇宙
【概要】
官民を問わず国を挙げての航空・宇宙産業の育成
【中小企業の関わり方・方向性】
・高度な加工技術を持つ中小企業が活躍する場の提供
・高度な品質保証体制を整備する機会の創出
⑥ デジタル・サイバーセキュリティ
【概要】
国民生活・企業活動・国家安全保障を支える基幹インフラの整備
【中小企業の関わり方・方向性】
・システム開発取引の活発化
⑦ コンテンツ
【概要】
アニメやマンガ、映画、音楽など幅広いコンテンツを国家戦略として海外に発信
【中小企業の関わり方・方向性】
・アニメ制作の案件数の増大
・国を挙げてのコンテンツ産業を支える人材の創出
・海外進出の機会の獲得
⑧ フードテック
【概要】
代替肉や培養肉の開発、食品ロスの提言など食品産業のテクノロジーを育成
【中小企業の関わり方・方向性】
・細胞培養食品など新たな産業の発展
・衛星データの活用や需給予測システムなどテック企業が活躍する場の提供
⑨ 資源・エネルギー安全保障
【概要】
グリーントランスフォーメーションへの取り組みを加速
【中小企業の関わり方・方向性】
・補助金を活用した工場などへの太陽光発電導入の推進
・バイオマス、地熱、風力発電などの新たな電源技術の発達
⑩ 防災・国土強靭化
【概要】
災害に備えたインフラの強化、補修の推進
【中小企業の関わり方・方向性】
・建設業の活発化
・建設テックの推進
⑪ 創薬・先端技術
【概要】
医療分野の革新的な技術を育て、国際競争力を強化
【中小企業の関わり方・方向性】
・バイオベンチャーが活躍する機会の創出
・医療のデジタル化推進の機会の創出
⑫ フュージョンエネルギー
【概要】
核融合技術を視野に入れた次世代エネルギー源の開発、実用化の推進
【中小企業の関わり方・方向性】
・核融合炉の部品メーカーの振興
・技術開発に向けた補助金獲得機会の創出
⑬ マテリアル
【概要】
鉱山、海洋資源の開発を進めて原材料・素材の開発を国家戦略として強化
【中小企業の関わり方・方向性】
・資源開発に必要な重機産業の発展
⑭ 港湾ロジスティクス
【概要】
物流インフラの拠点として、港湾のデジタル化や自動化を軸とした港湾インフラを強化
【中小企業の関わり方・方向性】
・港湾関連企業の活発化
・デジタル技術や自動化サービスの開発促進
⑮ 防衛産業
【概要】
国産戦闘機やミサイル、ドローン、通信、システム開発などの防衛産業を成長
【中小企業の関わり方・方向性】
・防衛産業の活発化
・新たな事業機会の創出
⑯ 情報通信
【概要】
5G、6Gなどの次世代通信技術、衛星通信、AI通信技術の開発を推進
【中小企業の関わり方・方向性】
・半導体産業、通信産業、AI産業の活発化
・通信技術の向上による新たなビジネスチャンスの創出
⑰ 海洋
【概要】
自律無人船、洋上風力発電など海洋技術の開発を推進
【中小企業の関わり方・方向性】
・大企業やスタートアップと連携した無人船開発プロジェクトへの参画
17の分野で具体的に政府がいかなる役割を果たすのかはこれから決まります。
基本的には、補助金や官民ファンドを通した投資の加速、政府系金融機関の貸付枠の拡大、規制緩和、官民学の連携強化が主軸になるでしょう。
1-2. 17の投資分野の本丸は防衛産業か?

政府の方針には期待感が高まるばかりですが、重点投資を掲げる割には数が多い印象があります。
高市政権としても、特に力を入れる領域があるはず。
そしてそれは、防衛産業である可能性が高そうです。
その理由は3つあります。
① 国土の防衛には強い危機感
1つ目は高市氏が保守派であり、石破前首相に敗れた先の総裁選では、首相に就任しても靖国神社を参拝することに変わりはないとの趣旨の発言をしていました。
また、首相就任後間もない国会質疑で中国による台湾への武力侵攻が起きれば、存立危機事態に認定して集団的自衛権を行使するとの発言で物議を醸してもいます。
中国を念頭においた、国土の防衛には強い危機感を持っているのです。
② 日米の安全保障を最優先に考えている
2つ目は日米の安全保障を最優先に考えていたことです。
就任後すぐにトランプ大統領が来日しました。
そこで日米両国の安全保障分野で協力する方針を確認。高市首相は日本の防衛費をGDPの2%に引き上げると約束しています。
③ 国際情勢が不安定なため
3つ目は国際情勢が不安定になっていることです。
特に中国と台湾の情勢は深刻さを深めています。
中国は台湾周辺での軍事演習を強化し、習近平国家主席は祖国統一を宣誓。武力行使も辞さないとしています。
バイデン政権時は中国による侵攻があった場合、台湾防衛をする姿勢を示していました。
一方、ディールを優先するトランプ大統領は明言を避けています。
来日時はにこやかだったトランプ氏も、実際に有事が起こった際にいかなる一手を打つのかが見えてこないのです。
1-3. 裾野が広い防衛産業
そもそも、防衛産業にはどんなものがあるのか?
三菱重工業や川崎重工業、IHI、三菱電機の牙城とも言える領域ですが、裾野が広いことも特徴です。
航空・宇宙開発、造船、サイバーセキュリティ、システム開発もこの分野に入ります。無人化、AIの活用も進むでしょう。
防衛産業で培った技術を民生利用するデュアルユースにも期待されており、ドローン、衛星データ活用、位置情報分析、新素材の開発、広域災害対策情報技術など様々な産業での活性化が見込めます。
防衛省と経済産業省はデュアルユース技術を発展させるため、資金支援や企業同士のマッチング機会の創出、情報提供、防衛に必要な技術のニーズと開発した製品のフィードバックなども行っています。
防衛産業は、中小企業やスタートアップが活躍する土壌が整っているのです。
2. 日本維新の会が進めたい社会保険制度改革
~OTC類似薬は保険適用外?~
高市内閣の発足は、日本維新の会の協力なしにはありえませんでした。
従って、維新の会の政策が前に進む可能性があります。
この政党の一丁目一番地と言えるのが社会保障制度改革です。
2-1. 話題のOTC類似薬とは?
社会保障改革で議論の加速が予想されているのが、OTC類似薬の保険適用の除外。
維新の会は1兆円程度の保険料の削減効果があると主張しています。
OTC類似薬とは、風邪薬や湿布薬などの軽い症状に用いられるもので、医師の診断を受けたうえで処方される薬です。
ポイントはドラッグストアで販売されている薬とほとんど同じだということ。
「ロキソニンS」と「ロキソニン錠60mg」
よく知られている鎮痛剤に「ロキソニン」がありますが、ドラッグストアで販売されているのは「ロキソニンS」。医師の診断が必要なOTC類似薬が「ロキソニン錠60mg」です。
この2つの薬は成分、添加物、大きさはまったく同じで、違いは割線と刻印の有無のみ。それにも関わらず、「ロキソニン錠60mg」は保険適用がされている(利用者は割安で手に入る)のです。
OTC類似薬は「ロキソニン」以外にも多種多様な薬が存在します。
最も気を付けなければならないのは、慢性的な疾患に苦しむ人が薬代の重い負担に悩まされる懸念があること。
高市内閣は国民にとってベストな落としどころを見つけなければなりません。
2-2.自民党最大の支持基盤「日本医師会」は反対の立場
OTC類似薬の保険適用除外に危機感を募らせているのが、自民党への献金が多いことで知られる日本医師会です。
疾患に苦しむ患者が必要な薬を求めなくなってしまうことを心配してのものですが、病院経営を圧迫することも危惧しているでしょう。
特に「かかりつけ医」としての役割が大きいクリニックへの影響は甚大だと見られています。
現在は公立病院の8割、病院全体でも7割が赤字という緊急事態に見舞われています。
そうしたなかでOTC類似薬の保険適用除外を進めれば、さらなる悪材料を投下することになるのです。
2-3.「OTC類似薬の保険適用の除外」で儲かる業界はどこなのか ?
製薬会社はやや否定的な立場を示しています。
これは薬の買い控えを懸念してのもの。また、ドラッグストアでの販売が加速すると、多額の広告宣伝費が必要になるため、収益性が悪化する懸念があるのです。
一方、ドラッグストアは歓迎ムード。医薬品は他の商品に比べて利益率が高いからです。
軽い症状であれば自分で治癒するという「セルフメディケーション」の考え方が人々の間に広がれば、収益機会も広がります。
3. 介護業界は最大のビジネスチャンス到来

高市首相の夫、山本拓氏は2025年に脳梗塞で倒れ、右半身不随になりました。
高市首相は一人で介護をしてきたことで有名。
介護の大変さを身に染みて感じており、介護業界には強い関心があるでしょう。
総裁就任後の会見で高市首相は、介護事業者の倒産件数が過去最高であることに言及。そのうえで、補正予算を活用した介護報酬の前倒し改定に前向きな発言を行いました。
3-1. 在宅介護の拡充が進むか?
高市首相は自宅で介護していたこともあり、訪問看護、家事支援サービス、入浴支援などの介護サービスの規制緩和が進む可能性があります。
仕事をしながら家族が介護をするケースも想定し、介護休暇や時短制度の利用が今よりも進むかもしれません。
家族が介護をしやすくなるサービスの開発が活発化するでしょう。
企業側には、従業員が家族を介護しやすい環境を整備するよう求められる可能性もあります。
3-2. 介護業界にとってのビジネスチャンス
介護業界で最も深刻な問題が人材不足です。
介護職員の必要数は20222年が215万人、2026年に240万人、2040年には272万人になると推計されています。
2040年には57万人(必要数のおよそ2割)が不足すると見られているのです。
そうした中で、注目を集めているのが介護ロボットやICT。
少ない人員で効率的かつ手厚い介護を支援するものです。
ICTは情報通信技術のことで、見守り機器など介護サービスの品質向上を目的としたものと、介護スタッフの情報共有システムなど業務負荷軽減を目的にしたものの大きく2つがあります。
介護現場に必要なテクノロジー機器の導入には補助金の活用が進んでいます。
多くの中小企業、ベンチャー企業が製品やサービス、システムの開発を行っており、介護を手がける会社への提案が活発化しています。
2023年7月には、介護施設向けの見守りサービスを提供するエコナビスタが新規上場を果たすなど、上場を目指すスタートアップからも注目を集める分野です。
高市首相は就任会見で、物価高対策として介護施設の経営改善、働いている方々の処遇改善に繋がる補助金を前倒しで措置すると述べており、補助金を活用したビジネスの枠組みが広がる可能性があります。
4.デジタル化が進んで生産性向上が進む業界
高市首相はデジタル化の推進にも積極的。
総裁選での公約には、地方DXなどを通じた地域経済の活性化が掲げられていました。
飲食店や小売店、ホテルなどのローカルビジネスは、自動レジやオーダーシステム、勤怠管理、受発注システムなどのデジタル化が進みました。
一方、不動産業界、学校、警察署などはまだまだデジタル技術が浸透していません。
建設業界もまだまだ浸透とまでは行きませんが、は施工管理や人員管理、受発注をデジタルで行なえるようになりつつあります。
今後はこれらの業界でも、補助金などを通じて、デジタル化は進むでしょう。
DXで生産性の向上が図られる一方、その波に乗り遅れた会社は競合との差に苦しむことになるかもしれません。
5. 失速が懸念される業界
~外国製の製品に向けられる厳しい目~
今後、失速が懸念されている業界もあります。
5-1. 海外製メガソーラーには猛反対
外国製品による失速が懸念される筆頭に挙げられるのがメガソーラー事業。
高市首相は総裁選で「美しい国土を外国製の太陽光パネルで埋め尽くすことには猛反対だ」と述べてきました。
太陽光パネルの95%は海外製であり、そのうち8割超は中国製が占めています。
再生可能エネルギーという美辞麗句で開発が進んだ太陽光発電所ですが、国内の産業は活性化せずに中国経済を潤す結果となりました。
太陽光パネルを製造する段階で、大量のCO2を排出することでも知られています。
国内で乱開発が進んだ弊害も起こりました。
山の斜面に設置することで土砂災害リスクが顕在化し、釧路湿原のメガソーラー建設では土壌汚染問題が表出しました。
メガソーラー開発や運営を行う事業者には逆風が吹きそうです。
ただし、使用済み太陽光パネルのリサイクルを義務化する法案を前に進めるなど、新たなビジネス機会も生まれそうです。
5-2.中国製のお掃除ロボットの行方は?
高市首相の総裁選で大活躍した参議院議員・小野田紀美氏は高市内閣で経済安全保障担当大臣に任命されました。
小野田大臣は過去、議員会館の中国製ロボットを問題視しました。
安全保障上の問題が本当にないのか、というものです。
アメリカやヨーロッパは露骨に中国製品を排除しています。
日本がそこまでするとは想像しづらいものの、中国との緊張感が高まっていることもあり、中国製の製品に抑制しようとする動きは出るかもしれません。
中国製品を扱う商社、部品メーカー、小売店などは警戒が必要でしょう。
5.M&Aにも積極姿勢

高市首相はM&Aについて、中小企業の事業承継問題の解消、業界再編を促進するうえで重要だと捉えています。
帝国データバンクの調査では、2024年の経営者の平均年齢は60.7歳で、34年連続で上昇しています。
特に地方で高齢化が進行しており、秋田県は66.7歳、高知県は65.7歳でした。
業界においては、不動産を中心に高齢化が進んでいます。
M&Aはすでに中小企業向けの補助金が用意されていますが、制度の拡充、相談窓口の拡大など、業界活性化に向けた取り組みに期待ができます。
5-1.事業承継に悩む中小企業経営者はすぐに相談を
事業承継問題で悩んでいたら、M&A仲介会社に相談してください。
日本は人手不足が進行し、デジタル化が進むことで競合の生産性向上が飛躍的に進むとみられています。
競争環境の激化、廃業の加速が予想されているのです。
M&Aは会社が持続的に事業を行い、顧客や従業員、取引先を守る有効な手段です。
6.まとめ
2025年10月に発足した高市内閣の経済政策と、それが各産業に与える影響を紹介しています。
政府が発表した17の重点投資分野の中でも、特に防衛産業への注力が予想されています。
また、日本維新の会との連携により、OTC類似薬の保険適用除外など社会保障制度改革が進む可能性があります。
高市首相の介護経験から介護業界の規制緩和や報酬改定が期待される一方、デジタル化推進により建設業や不動産業などでDXが加速すると見込まれています。
一方で、外国製品、特に中国製のメガソーラーやロボット製品には厳しい姿勢を示しており、経済安全保障を重視する方針です。高齢化に伴う事業承継問題の解決策としてM&Aの促進にも積極的な姿勢を見せています。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。
業界特化のM&A 「エム アンド エー オール」